10話:合同授業開始!ー①
ついに――魔法使いと使い魔の〈合同授業〉、実技演習の日がやってきた。
朝の演習場は、まだ少しひんやりしている。
魔力を帯びた空気の中、ざっ、と砂を踏む音がいくつも響いた。
広い訓練フィールドに、魔法使いたちと使い魔たちが二人一組で並んでいる。
並んでいるのは、座学で顔を合わせていた同じクラスの生徒たちだが、今日の空気はまるで違う。
魔法使いと使い魔が並ぶことで力の序列が明確になり、互いの気配が静かにぶつかり合っている。
実技演習の開始を前に、場には張りつめた緊張が漂っていた。
ピクルは周囲を一瞥した。
どの組も、魔法使いの背後に使い魔が一歩下がって控えている。
統制が取れた姿は、それだけで圧を感じる。
――その静寂を破ったのは、ミラの明るい声だった。
「ぴーちゃん! 今日からずっと一緒だね!」
ミラは、ぴとっと腕を絡めてピクルにくっつく。
周囲の視線が、一斉に刺さった。
「ちょっ、おい! 空気読め! そういう雰囲気じゃねぇだろ!?」
ピクルは慌てて、ミラの腕を外す。
「え〜、やっと一緒の授業に出られるようになったのに!」
「あんまベタベタするとまずいって……」
「なんで?」
チラリと後ろに立つ人影を見る。
座学時は見なかった、鋭い目つきの教官たちが並んでいた。
「最初から悪目立ちすると目つけられんぞ。
……マナ・スコア減点されて、退学喰らうんじゃね?」
「えっ!? そ、そんなに!?」
ミラが飛び上がるようにして、慌ててピクルから離れる。
ピクルは心の中で苦笑する。
(さすがに退学はねぇと思うけど……
ミラの場合、キツ目に言っとかねーと何するかわかんねーからな……)
「とりあえず、初日なんだしシャキッとしとけ」
「わ、分かった!」
ミラは背筋をぴんと伸ばして真面目な顔を作り、他の魔法使いたちと同じようにピクルの前に立つ。
だが――
「……やっぱり落ち着かない……ちょっと離れてればいいよね?」
ミラはそわそわしながら、少し距離を空けてピクルの隣に立つ。
そのビクビクした態度にピクルは思わず吹き出した。
「あぁ、そうだな」
ミラは、一応気を遣って小声でピクルに声をかける。
「実技演習って何するんだろうね?」
「さぁ? なんだろな。
D組は防御とか治癒系だから、そのへんの基礎でもやんのかも」
「へー、そうなんだー。クラス分けって意味あったんだね」
「お前、ちゃんと情報回してもらえって言ってんのに……相変わらず何も知らねーな」
ピクルは呆れ顔だが、ミラは腑に落ちていない様子で続ける。
「でも私、別に防御魔法、特別得意ってわけでもないけどなぁ?」
「確かにそうだな。なんでもできるから、“その他扱い”なんじゃね?」
「扱い雑だなぁ……」
ミラがむくれると、ピクルは吹き出して肩をすくめた。
◇
チャイムが鳴り、教師が列の前に立つ。
座学の時の上品な女性教師ではなく、筋肉質な強面の男性教師だ。
「今日から魔法使いと使い魔の合同演習を始める」
低く響く声は、雷鳴のように演習場に響いた。
空気が一瞬で引き締まり、生徒たちは息をのむ。
インペリアルの授業は、ただの訓練ではない。
国家直属の研究機関を兼ね、日々新しい魔法理論と応用技術を試す場所。
成果を出せば、在学中でも実戦部隊や研究班への推薦がある。
――“英才教育”とは名ばかりの、実力主義の現場だった。
「ガルド・バーンハルトだ。実技演習の主任を務める」
その名を聞き、数人の生徒がざわつく。
学院でも数少ない〈現場上がり〉の伝説的教官――。
「座学でやった基礎は実技でもクリアしているものとみなす。
これから扱うのは、応用だけだ」
(はぁ!? 座学で基礎終わり!? 雑すぎだろ!)
ピクルは内心、頭を抱えた。
「最初の演習では〈融合魔法〉の初歩を扱う。
魔法使いと使い魔、双方の魔力を重ね、単独では不可能な術を生み出す――それが“融合”だ」
「〈融合魔法〉……?」
生徒たちがざわめく。
その言葉を知っていても、実際に扱った者はいない。
「融合には段階がある。まずは“魔力共有”だ」
バーンの声が低く響く。
「“魔力共有”とは、一方の魔力を相手へ流すこと。
その受け取った魔力も自分のものとして発動できる。
これだけでも魔法の安定性は格段に上がるぞ」
バーンは一歩前に出て、声を張り上げる。
「“魔力共有”の第一歩は、相手の魔力を“感じ取る”こと。
流れが乱れれば即座に暴発するぞ!
魔力の温度や鼓動を心で感じ取れ!
大事なのはハートだ!
――そうすれば自ずと道は開ける!!!」
バーンは熱く語るが、ピクルは内心ツッコむ。
(なんか説明が全部フワっとしてんな……全部感覚じゃねーか……)
「次の段階が“属性融合”。
魔力が噛み合った者だけが、初めて属性を混ぜることができる」
「炎に風を混ぜ、水に雷を走らせる――理屈の上ではどんな組み合わせも可能だ
成功した場合の威力は魔力共有の比ではない!!」
そしてバーンは、少し声のトーンを落として続ける。
「だが、実際に成功するには技術が必要だ。
波長がわずかにずれれば、術は暴走し、双方の魔力を焼き尽くす
注意して発動するように」
(こえーよ……そんなん入学早々やらすなよ……この学校、大丈夫か?)
ピクルはだんだん頭が痛くなってきた。
「大事なのは、信頼関係だ。
魔力を預けるとは、つまり相手に“命を預ける”のと同じことだ。
その覚悟がなければ、どれだけ理論を詰めても失敗する」
生徒たちは顔を見合わせ、たじろぐ。
バーンは手を叩き、合図を送った。
「理屈より先に体で覚えろ。
まずは、”魔力共有”をやってみろ。
成功した者だけ、次の段階へ進め」
(え? これで説明終わり!? こんなんで分かるわけねーだろ! くっそ、脳筋が……)
ピクルは周りを見回す。
皆一様に”全くわからない”と言う顔をしていたが、質問する勇気のある者はいなかった。
バーンは腕を組み、何十もの戦場を踏んできたような眼光で生徒たちを見渡す。
「融合は、ただの戦闘技術じゃない。
国の防衛、災害対応、魔力炉の維持、果ては外交の儀式まで――
使い魔と共に“制御できる魔力”を扱える者は、どんな現場でも重宝される。」
バーンは語気を強める。
「今は昔みたいに、使い魔を操るだけじゃ生き残れん。
“融合”によって威力も安定性も桁違いになる。
他所では特別な能力かもしれんが、インペリアルでの”基本中の基本”だ。
これができなきゃ、ここでは居場所はないぞ」
生徒たちに緊張が一気に走る。
そして最後にニヤリと笑ってこう言った。
「ちなみに、学期末までに成功できなかったペアは――マナ・スコア減点だ」
ピクルはうんざりして周りを見渡す。
真剣な顔で考え込む者もいれば、頭を抱える者もいる。
……その中で、ミラだけが満面の笑顔でうなずいていた。
(こいつだけ、何でこんな楽しそうなんだよ……)
「やっぱり、イチャイチャしていいってことだよね!」
「どこをどう聞いたらそうなるんだよ!」
ピクルは大きくため息をついた。




