8話:甘えたい気持ちー②
あの夜から、数日が経った。
ピクルの胸のざわつきも、ようやく少し落ち着いてきた頃。
学校では〈基礎テスト〉の結果が返され、寮の中はどこも一喜一憂の声で賑やかだった。
ミラとピクルは、“テスト結果報告会”と称してルシアンの部屋に集まっていた。
ミラはニヤリと得意げな笑みを浮かべ、答案を見せびらかす。
「どう? いい感じでしょ?」
「おい、マジか!? お前、結構点取ってんじゃねぇか」
ピクルは思わず声を上げた。
「すごいでしょ! ぴーちゃんはどうだった?」
「いや、まぁ……普通だな」
ミラはピクルの答案を覗き込む。
丸よりもバツが多く、点数もマナ・スコアには響かないギリギリ。
ピクルは慌てて答案を伏せた。
「思ってたよりダメだったね? ぴーちゃん、私より予想問題できてたのに」
ミラは小首を傾げ、意外そうな顔をしていた。
「うるせぇ……本番は違うんだよ」
その反応を見て、ルシアンがくすっと笑った。
「ピクルくん、”この前のこと”があって、ずっと放心状態だったからね」
ルシアンはおかしくてたまらない様子だ。
「お、おい! ルシアン、余計なこと言うなよ!!」
ピクルは慌ててルシアンを静止する。
「ミラちゃんのことで頭がいっぱいで、テストどころじゃなかったんだよ」
ミラは、その言葉に満面の笑みを浮かべた。
「そうなんだ!」
「そうじゃねぇ! ルシアンが大袈裟に言ってるだけだ!」
ピクルは顔を真っ赤にして必死に言い訳をしているが、二人はまるで相手にしていない。
「ずっと固まってて、本当に面白かったよ」
「知らなかったー!ぴーちゃん、全然そういうの言ってくれないんだよね〜」
「そうそう。ちょっと素直じゃないところ、あるよね」
ミラとルシアンは、二人で顔を見合わせて笑う。
(くっそ。こいつら全然聞いてねー……)
「お前ら、こんなことで仲良くなってんじゃねーよ」
口ではそう言いながらも、ピクルの声にはどこか安堵の色があった。
そんなピクルを嬉しそうに眺め、ルシアンが話を切り出す。
「ねぇ、ミラちゃん。ピクルくんのクラスでの様子、もっと知りたい?」
「うん!」
ミラが目を輝かせる。
「じゃあ、その代わり、ミラちゃんもリリアナ様のこと、教えてくれる?
僕たちも、ミラちゃんたちみたいに仲良くなりたいんだ」
「うん! 分かった! 情報交換ね!」
ミラは嬉しそうに頷いた。
「約束だよ」
ルシアンが差し出した手を、ミラは勢いよく握り返す。
その様子を、ピクルは呆れ半分、安心半分の表情で見つめていた。
胸の奥が少しだけ軽くなるのを感じた。
学院での生活は、まだ始まったばかり。
だけど――
少しずつ、ミラの世界も、自分の心も、変わり始めていた。




