夫が出張だと言って毎週帰ってこないので調べたら隣町で別の家庭を築いていました〜週末婚の慰謝料と借金で身ぐるみ剥がしますのでその真実の愛とやらで頑張ってくださいね〜
「クレア、すまない。また来週も地方へ出張なんだ。君に寂しい思いをさせて心が痛むよ」
夫アーヴィンは眉尻を下げ、頬にキスをした。
彼は新興商会の副会頭。クレアは由緒ある伯爵家の娘で実家からの出資を受けて彼が商売を広げている形だ。結婚して三年。週の半分以上家にいない。
事業拡大のためだと言われれば、出資者の娘として妻として応援するしかなかった。
「お仕事なら仕方ありません。お体に気をつけて」
「ああ。君という理解ある妻がいて世界一の幸せ者だ」
颯爽と馬車に乗り込んでいった背中を見送りながら、懐から興信所の報告書を取り出す。
「……ええ、本当に世界一の幸せ者ね。二つの家庭を持てるなんて」
報告書には隣町の閑静な住宅街にある、可愛らしい一軒家の写真があった。そこにはエプロン姿の若い女性と、彼女のお腹を愛おしそうに撫でるアーヴィンの姿が写っている。
出張?いいえ。彼はあっちの家に帰っているだけなのだ。
翌週、アーヴィンは上機嫌で帰宅した。
「ただいま、クレア!今回の取引も大成功だったよ!」
リビングのソファに座り、紅茶を飲んでいた。テーブルの上には書類の山が積まれている。
「お帰りなさい、アーヴィン……取引というのは、妊婦検診への付き添いのことかしら?」
「えっ……?」
笑顔が凍りついた男へと、テーブルに写真を放り投げた。彼と愛人のルルライナというらしい女が、ベビー用品店で笑い合っている写真。
「な、なんだこれは!誤解だ!彼女は……その、遠い親戚で!」
「嘘をおつきにならないで。隣町のひだまり通り3番地。あなたが半年前に購入した家よね?表札には堂々とアーヴィン&ルルライナって書いてあったわ」
ガタガタと震え出し、やがて開き直ったように叫んだ。
「わ、悪いか!クレア、君との生活は息が詰まるんだ!君は完璧すぎるし、家柄も良すぎる!ルルライナは違う、彼女は俺を癒してくれるんだ!子供も生まれる!俺たちは真実の愛で結ばれているんだ!」
「へえ。真実の愛」
冷ややかに笑う。
「じゃあ、離婚でいいのね?」
「ああ!願ったりだ!ただし、財産分与はしてもらうぞ。俺だってこの家の発展に貢献したんだ!」
彼はまだ自分が対等な立場だと思っているようだ。最後の一枚、分厚い契約書を突きつけた。
「財産分与?何を言っているの?あなたは今から無一文どころか、巨額の借金を背負うのよ」
「は?借金?」
「ええ。あなたがルルライナさんとの愛の巣……あの家を買うに当たって、商会の経費を流用していましたよね?新規店舗の取得費という名目で」
「そ、それがどうした!俺は副会頭だぞ!会社の金を使う権利がある!」
「ありません。それは業務上横領と言います。商会の出資者は私の父、つまり伯爵家です」
ペンを回しながら淡々と告げた。
「父には報告済みです。横領された資金の即時返還を求めるとのこと……返せなければ、あの家を差し押さえます」
「なっ……待て!あの家はルルライナが一番気に入っているんだ!今、身重なんだぞ!追い出す気か!?」
「あなたが会社の金で買った家でしょう?私の金で浮気相手を住まわせるなんて、私が許可するとでも?」
さらに追い討ちをかける。
「それと、あなたが私に内緒で作っていた隠し借金。私の連帯保証人の判子を偽造していましたね?これも私文書偽造で訴えます。慰謝料請求も上乗せして……合計で金貨5000枚。今すぐ払えますか?」
泡を吹いて腰を抜かした手元にあるのは、小遣い程度の現金だけ。
「払えないなら、結構です。法の手続き通り、全て剥ぎ取らせていただきます」
数日後。隣町の愛の巣に裁判所の執行官と、クレアと護衛が訪れた。
「きゃあ!何よあなたたち!アーヴィン、どういうこと!?」
ふっくらとしたお腹を抱えたルルライナが玄関で悲鳴を上げる。後ろから、やつれ果てたアーヴィンが現れた。
「ル、ルルライナ……すまない。家を出て行かないといけないんだ……」
「はあ!?何言ってるの?この家はパパになるアーヴィンが買ってくれたんでしょ!?」
一歩前に出てにっこりと挨拶した。
「初めまして、ルルライナさん。この家の真のオーナー債権者であるクレアです」
「え?あなたが奥さん?……ふん、知ってるわよ。うちの子のパパとは愛のない政略結婚なんでしょ?早く別れてあげなさいよ」
ルルライナは勝ち気だった。アーヴィンから「妻は冷徹で俺を財布としか見ていない」とでも吹き込まれていたのだろう。
「ええ、別れましたよ。先ほど離婚届を出してきました……ただ、まあアーヴィンさんが貴女に言っていなかったことがあるみたいですね」
「何よ?」
「彼は資産家ではありません。私の実家の資産を使っていただけの雇われです。今回、横領と詐欺で訴えられ、全財産を没収されました。もちろんこの家もね」
「は……?」
ルルライナの顔から色が消えた。
「つまり、今は無職で多額の借金持ちで、前科持ち寸前の住所不定無職です……さあルルライナさん、貴女たちの愛の見せ所ですよ?彼を支えて一緒に借金を返してあげてくださいな」
言い終わった瞬間、ルルライナの表情が一変した。
「ふ、ふざけないでよ!!」
バチン!!
ルルライナの平手打ちがアーヴィンの頬に炸裂した。
「金持ちだって言うから付き合ったのに!詐欺師!嘘つき!私と子供を路頭に迷わせる気!?」
「ル、ルルライナ!愛していると言ったじゃないか!」
「愛でご飯が食べられると思ってんの!?出てってよ!……いいえ、私が出て行くわ!実家に帰る!」
ルルライナは高価なバッグ。これもこちらの金で買ったものだろうものを引っ掴み、アーヴィンを蹴飛ばして家を飛び出していった。
「ぐ、ま、まま、ま、待ってくれルルライナァァァ!」
残されたのは空っぽの家と頬を腫らして泣き崩れる元夫だけ。その後、アーヴィンは借金返済のためにカマと呼ばれる過酷な労働施設に送られた。
二つの家庭を行き来して楽しんでいた彼は、今や狭い二段ベッドの一つだけが自分の居場所。
ルルライナは実家に戻ったものの「妻子ある男を唆した」という噂が広まり、肩身の狭い思いをしているらしい。
「クレア様、新しい事業計画書です」
「ありがとう……ふふ、今回の利益も素晴らしいわね」
元夫を排除し、商会の経営権を完全に取り戻したあと実家の後ろ盾もあって、さらに事業を拡大していた。家の中には支えてくれる優秀で誠実な執事や、新しいビジネスパートナーたちが集まっている。
「二つの家庭なんて欲張るから、一つも残らないのよ」
広々としたリビングで、自分自身で稼いだ極上の紅茶を味わう。ここにあるのは嘘も裏切りもない、正真正銘のクレアの城。
窓の外では今日も素晴らしい青空が広がっている。にっこり笑ってお一人様を楽しんだ。
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