第2章:拒絶と匿い
ギャルとショタ、そして清楚の三人の生活は、ギャルの宣言通り始まり、ギャルにとっては日常となりつつあったが、清楚にとってはどこか歪なものだった。
ある日、清楚は、ショタが加わった後の日常を切り取った動画をSNSにアップロードした。しかし、彼女の計算し尽くされた完璧なフレームの中に、ショタの存在の小さな痕跡が知らず知らずのうちに紛れ込んでしまっていた。
清楚のフォロワーはその痕跡を見逃さなかった。しかし、視聴者の反応はおおむね肯定的だった。 「いいお姉ちゃんだね」「俺もこんなきれいなお姉ちゃんがほしかった」など。しかし、一方でごくわずかな視聴者から「幻滅した。結局きれいにしてるのが外ツラだけか」という辛辣な意見が寄せられた。
完璧主義の清楚は、この否定的な意見の方に心が完全に動いてしまう。彼女の病的な承認欲求にとって、この「外ツラだけ」という指摘は致命的だった。彼女は今後、動画から、そして生活から、ショタの痕跡を一切遠ざけることを心に決める。清楚にとって、ショタの存在は常に視界の隅でちらつく「煩わしさ」の塊になってしまったのだった。それからというものシェアハウスで彼女はショタの様子を見ることはなくなった。
そんなある日、清楚は今日もリビングの最も日当たりの良い場所で、新作ブランド品の紹介動画を撮ることに夢中だった。
「それじゃあアタシ、アルバイトに行ってくるから。ショタ、おとなしくしてるんだよ。清楚、何かあったらアタシのスマホに電話かメッセージ送ってね」
夜になり、ギャルはいつものようにバイトへ出かけた。清楚は内心で「面倒くさい」と感じながらも、穏やかな笑顔で「わかった、任せて」と答えた。
二人きりになったシェアハウス。清楚はショタを完全に無視し、撮影を再開。今日の動画は有名インフルエンサーとのコラボ企画に向けた告知動画のようだ。清楚の気合の入り方はいつも以上だった。ショタもそれを察し、清楚の邪魔にならないよう、部屋の隅でギャルが買い与えてくれたゲームを始めた。
どれくらいの時間が経っただろうか。ショタがトイレに立とうとした、ほんの不注意な瞬間だった。彼の足が、撮影中のスマホが立てられた三脚に、ゴツンと当たってしまった。バランスを失ったスマホは、スタンドごと床に倒れ、撮影は台無しになった。
「っ……ちょっと、あなた何やってんのよ!」
清楚の頭の中で、今までの全ての「煩わしさ」が一気に弾けた。彼女は瞬時に立ち上がり、顔を歪めた。
「これどうするのよ!ここまでの動画データ、全部台無しになったじゃない!そもそも、いつまでここにいるつもり!ギャルに甘やかされて、いい気になってるんでしょ!」
ショタは恐怖で身がすくみ、ただ「ごめんなさい、ごめんなさい」と謝ることしかできなかった。しかし、清楚の怒りは収まらない。彼女は続けた。
「いい?私がSNSの力を使って、フォロワーにあなたのこととか色々言ったら、この国になんかすぐにいられなくできるんだからね!もういい加減、出て行ってよ!」
そして、明確な悪意を持って、清楚はキッチンからハサミを持ち出した。
「ジョキンッ…!」彼女が切ったのは、ギャルがショタのために買った、あのゲーム機の電源コードだった。
「これで遊べないでしょ。さあ、もう家に帰りなさい!」
ショタはついにその本性を現した清楚の恐ろしさに大層怯え、謝罪の言葉を呟くことしかできないまま、ハサミとゲーム機の亡骸を前に、家から追い出されてしまった。
夜の街に消えていく小さな後ろ姿を見送って、清楚は満足気に口元を緩めた。
「これでせいせいした。私の完璧な生活が戻ってくる」
そう心の中で呟いた彼女の顔は、あまりにも醜い勝利の表情に満ちていた。
しばらくして、ギャルはショタのために買ったお土産の小さな袋を提げて、シェアハウスに帰ってきた。
「ただいまー!ギャルのお姉ちゃんが帰ってきたよー!ショタ、これ今日の戦利品!お土産というやつだ!…ってあれ?」
しかし、玄関にショタの靴はなく、リビングにも彼の姿はなかった。
不思議に思ったギャルが清楚に尋ねる。
「ねぇ清楚、ショタどこ行ったの?」
清楚は顔色一つ変えず、完璧な外面の笑顔で答えた。
「あら、ちょうど私が動画を編集している間に、あの子のお家の人から連絡があってね。迎えに来たのよ。私たち二人によくしてもらったって、丁寧にお礼を言って帰っていったわ」
ギャルは「そっか、帰ったんだ」と少し寂しそうに呟き、右手に持ったお土産に目を落とした。ショタが無事に家族の元へ帰れた安堵と、突然の別れの寂しさが混ざったような表情だった。その後、彼女がショタの家の場所や様子を尋ねても、清楚は「急いでたから聞けなかったわ」「もう会えないかもしれないね」と冷たくあしらうばかりだった。




