第1章:鮮烈な対照
むかしむかし、光と影のような二人の女神が、ひとつ屋根の下に暮らしておったそうな。…いや、むかしむかしではない。これは現代の話。
とある街の瀟洒な一室、そこはあまりに鮮烈なコントラストを放つ二人の女性が暮らすシェアハウスだった。
一人は清楚。柔らかな色味のカーディガンを羽織り、テーブルについた彼女は、まさに絵に描いたような優等生だ。成績は常にトップ、立ち振る舞いは完璧。そして何より、彼女の生活はSNSのフォロワー数という明確な指標で評価されていた。この夜も、照明の角度一つまで計算し尽くし、新作コスメのレビュー動画を撮り終えたばかりだ。彼女の世界は、常に明るく、美しく、そして寸分の乱れも許されない。
一方、その部屋のドアが勢いよく開けられたかと思うと、もう一人の住人、ギャルが帰宅した。派手なメイクとアクセサリー、肌を露出したファッションは、清楚とは真逆のベクトルで突き抜けている。彼女は「ギャルはギャル」という一言に集約される、世間の常識や視線を気にしない自由な存在だった。清楚がSNSの評価に神経を尖らせている間、ギャルは今まさにアルバイトを終え、夜の街から帰ってきたところだ。
「へっへーん!はーい、ただいまー。ね、清楚まだ仕事してんの?よくやるねぇ」
ギャルはそう言いながら、片手にコンビニの袋、もう片方の手で誰かの小さな手を握りしめていた。その小さな人影に、清楚は瞬時に顔を凍らせる。
「…ちょっと、ギャル。それ、誰?」
ギャルに手を引かれたその子は、どこか怯えた表情で、服には泥や埃がついていた。どうやら家出をしてきたらしい、まだ幼いショタだ。そのショタの衣服は、ギャルは気づいていないようだが家出少年にしてはずいぶんと立派だった。ブランドのロゴも見える。
ギャルはふわりと笑い、その子を隠すように前に立って言った。
「駅前の路地で拾ったんだ―。へへ、いいでしょ。可愛そうだしねー。ちょっとこのシェアハウスでに置いておくことにしたんだっ」
清楚の顔から、一瞬で作り物の笑顔が消え去った。完璧な彼女の世界に、異質な「乱れ」が持ち込まれたように感じたのだ。
「…何言ってんのよ。冗談でしょ?すぐに警察に届けなきゃ!」
清楚の言葉は冷たく、拒絶に満ちていた。自分のSNSの動画に、この汚れた家出少年の影が映り込むことへの恐怖。そして、何より自分より“劣った”存在を慈しむギャルの行動への不快感が、彼女の顔にありありと浮かんでいた。
しかし、ギャルはそれを一蹴する。
「え~?いいじゃんかさぁー。このまま放り出してもアレじゃん?ね!私が面倒見るからさ。清楚には迷惑かけないって!いいでしょ、今日からこの子も住人ね!」
対立する二人の主張は、そのまま二人の生き方を象徴していた。そして、この日を境に、完璧な清楚と心優しいギャル、そして謎のショタによる奇妙なシェアハウス生活が、半ば強引に幕を開けたのだった。
その日の夜、ギャルは汚れたショタを優しく風呂に入れ、食事を与えた。
しかし翌日、ギャルはすこし肩を落として帰宅した。清楚はSNSに投降するダンス動画のための練習に執心だったが、ショタはそんなギャルの様子を心配して声をかけた。
「ギャルのお姉ちゃん元気ない?どうしたの?」ギャルは申し訳なさそうにショタに紙袋を差し出した。実はギャルは、家にいて退屈してるであろうショタのために、自分で稼いだアルバイト代でゲーム機と人気のゲームを買って帰ってきたのだ。しかしゲームには疎いギャル。どのゲームがいいのかわからなかった。迷った挙句ショップ店員に尋ねると、曰く最新のゲーム機とゲームソフトは転売ヤー対策もあって販売規制が敷かれており、ギャルのように知識のない客は転売ヤーの疑いがあるために売れないと言われてしまったとのこと。つまりギャルは一世代前のゲーム機とゲームソフトしか買うことができず、悔しさと情けなさと無力さで肩を落としていたのだ。しかしそんな話を知ったショタは嬉しくてたまらなかった。
「最新じゃなくっても、人気のゲームじゃなくても僕すごく嬉しいよ!完璧じゃなくても最高だよ!ギャルのお姉ちゃん!」
ショタはギャルの無償の優しさに触れ、ギャルに深く懐くようになったのだった。




