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勇者の消えた世界で  作者: 紫京アイラ


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第二十二話 新たな道、新たな出会い

「セラ、ちょっといいか?」

 俺の呼びかけに、彼女は無言で首を縦に振る。

 息を飲み、「ヴェイドのことだ」と伝えると、彼女の微笑みを帯びた目が一変した。

 

「代償なくしてヴェイドの力を使うことは、できると思うか?」

 俺の問いに彼女はしばらく考え込んでいた。

 風を払うように髪を耳にかけ、真っ直ぐこちらを見る。

 やがて、ゆっくりと口を開いた。

 

「正直、分からない。でも制御できればあるいは……」

 過剰な力の行使が招く“暴走”。それが“代償”なのではないか、ということだった。

 右腕の後遺症は、あくまで“暴走”による、事故の可能性もあるかもしれない。

 それがセラの見解のようだ。

 

「あの時のリディアに近い状態、ということか」

「たぶんね」

 風を纏ったときの状況が、俺の頭に蘇る。

 あの時は、ただ——必死で。

 欲するままに“想像”を重ねていた。

 あれがまさに“暴走”と言える状態だったのかもしれない。

 重たく感じる腕を抱えながらも、想いを巡らせる。

「なるほどな。制御できれば……」

 心の中に一筋の光が差し込んだ。

 

 しかし、希望で顔が緩む俺の隣で、セラだけは冷静な目をしていた。

 彼女は俺の目をしばらく見つめた後、大きなため息を吐いた。

 肩を落とし、小さく笑う。

「止めたって、やるんでしょ……」

 

 彼女の憂いを帯びた表情に、少し胸が傷んだ。

 けれど、俺は——

「あぁ」

 首を縦に振った。

 

 セラは再び大きくため息をつき、勢いよく俺を指差す。

「絶対に! 無茶しないこと!」

「分かったよ」

 笑って返事をする。

 俺だってセラにあんな顔、もう二度とさせたくないからな。

 その言葉は、流石に恥ずかしくて口には出せなかった。

 

 その後もセラから、いくつかの注意を受けた。

 その言葉の節々から、彼女の力の“暴走”に対する、強い恐怖心のようなものを感じた。

 

「うぅん……」

 どうやら、リディアが目を覚ましたようだ。少し騒がしすぎたか……

「寝ちゃってましたぁ……なんだか二人とも楽しそうですね?」

 ふわぁとあくびをしながら、俺たちの顔を見るリディア。

「いや、ちょっとな。セラに……魔術を教わってたんだ」

「そうなんですね! カイルさんならきっとできますよ!」

 キラキラ瞳を輝かせる彼女の純粋さが、今は少し心に染みるようだった。

 

 その後、リディアの支度が終わるのを待ち、俺たちは集落を離れた。

 

 しばらく進むと、木陰に馬車が停まっているのを発見した。

 少し古めかしくはあるが、しっかりとした作りで、側面には紋章のような装飾が施されている。

「こんなところに馬車? 珍しいな」

 思わず足を止める。こんな荒れた街道になぜ……

 疑問を感じながらも近づくと、馬車の横で——疲れ切ったのか、馬が地面に伏せていた。

 その傍らに、持ち主と思われる若い男が立っている。

 暗い顔をした男は、馬の首を撫でながら、小さくため息を吐いていた。

 

「あの……大丈夫ですか」

 声をかけると、男はビクッと肩を震わせ、ゆっくりこちらを振り向いた。


「よかった……魔物かと思いました」

 少し怯えるような表情だった男が、安堵の表情を浮かべる。

「こんなとこでどうしたんだ?」

「いや、ちょっと困ったことが……」

 彼は地面に横たわる馬を指差す。

 指の方向に目をやると、馬の脚部に血が滲んでいた。

 痛みからか馬の息は少し荒くなっている。

 

 男の話によると、仲間と共に物資の移動中、魔物に襲われたそうだ。

「そのお仲間さんってのは、どこにいったんだい?」

 セラが辺りを見渡すが、辺りには姿も形もない。

 

「他の馬車と護衛は荷物を持って、先に行ってしまったんだ……」

「ひどいです!」

 リディアが顔を真っ赤にして怒りを顕にする。

 

 このままだと、この人まで危険な目に会うかもしれない。

 俺はリディアと目を合わせた。

「頼めるか?」

「もちろんです!」

 リディアは意気揚々と馬の横に座り込み、血の滲む患部に手をかざす。

 淡い蒼色の光が指先から広がり、傷口を優しく包み込む。

 男はその様子を、ただ目を丸くして見つめていた。

 

 やがて、光は静かに収縮し、リディアの掌へ吸い込まれるように消えていく。

 

「どう……?」

 リディアが馬の首元を撫でると、馬は戸惑うように足を動かし始め——

 そして、ぐっと地を踏みしめて立ち上がった。

 ぱちぱち、とゆっくり瞬きをして、リディアの頬に鼻先を寄せる。

 嬉しそうな表情。まるで「ありがとう」と言っているみたいだった。

 

 男は驚きに目を見開いたまま馬へ駆け寄り、脚や首元を何度も撫でて確かめた。

 そして、ふいに手が止まり、肩が震える。

「あ、ありがとうございます! 本当に、ありがとうございます!」

 大粒の涙がぽろぽろ落ちる。

 男は声にならない声で何度も頭を下げた。

「よかったなぁ、ブラン! よかったなぁ……」

 “ブラン”というのが、この馬の名前のようだ。

 彼にとってブランは、家族同然の存在なのだろう。

 

 彼はしばらくブランと喜びを分かち合い、涙を拭うと、改めて俺たちに深く頭を下げた。

「本当になんとお礼を言ったらいいか……」

「いえ、当然のことをしたまでです!」

 リディアが胸を張る。

 彼女の頬は、朱色に染まっていた。

 

「いや、しかし……何か、お返しを……」

 男はぶつぶつと独り言を呟きながら、その場をうろつく。

 やがて、何かを思いついたのか、ぱっと顔を上げた。

「君たち、どこかへ向かう途中なんだろう? 良ければそこまで送ってあげよう!」

「それはありがたいが……大丈夫なのか?」

「今の私には、それくらいしかできないからね」

 男は空っぽの荷台を指さし、苦笑いを浮かべた。

 

「私たち、ここから西にある街に行きたいんだよねぇ」

 男の返事を待つ前に、セラがぴょんと荷台へ乗りかかる。

「おい、セラ! お前勝手に——」

 俺の制止を遮るように、男が明るく声を上げた。

「西の街? それなら丁度、帰り道だ!」

 どうやら男の行く先も、俺たちと同じく、西の街。

 方角以外は曖昧な俺たちにとって、これはまさに渡りに船だった。

 

「そういうことなら……悪いが、頼めるか?」

「喜んで! さあ、二人も乗って!」

 男に促されるまま、俺たちは荷台に乗り込んだ。

 木の軋む音と、どこか懐かしい草の匂いがふわりと鼻をくすぐった。

 

 男は俺たちが乗り込んだのを確認し、慣れた手つきで手綱を引いた。

「よし! 帰るぞ、ブラン!」

 ブランは小さく鳴き声を上げ、軽快なリズムで地を蹴った。

 歩みに合わせて、荷台がゆりかごのように揺れる。

 その揺れに身を任せながら、俺は小さく息を吐いた。

 ここ数日のざわついた気持ちが、ほんの少し落ち着いていくのを感じた。

 

「そういえば、まだ名乗っていなかったね」

 手綱を軽く引きながら、男は荷台へ振り返った。

 陽光が彼の輪郭をやわらかく照らしている。

 

「私の名は、エルノア。どうぞよろしく!」

 

 爽やかに笑うエルノアと握手を交わす。

 軽やかに揺れる荷台のリズムがやけに心地よく響いた。

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