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6.そして彼は思案した

 時は数分ほど遡る…


 レイスはこの状況を打破する為の案を数個思いついたが、一人では難しいという結論にも行き着いていた。


 恐らく、腕の一本でも犠牲にすれば一人でもあの獣を倒すことは可能かもしれないが、それは得策ではない。

 この先、自分には使命がある。約束した以上守らねばなるまいし、その時に腕一本となっては心許ない。なにより自分はこの世界に来てまだちゃんと剣を扱っていないのだからその案は無しだ。


「どうするか…まぁ、しかしだ。手はある。」


 幸運にもこの場は一人ではない。自分の体を犠牲にする必要はなさそうである。

 レイスは獣から足元で震える男に目線を移し一つの提案をしたのだった。


「このまま行けば俺達は全員、アイツに食い殺されて終わる。どうだ?生き残りたいなら俺に協力してくれないか?」


 男は不意な提案に躊躇したものの続けざまにレイスに脅しをかけられる。


「不本意だが、あんたが協力してくれないなら仕方ない。俺は隙を見てここから逃げるし、アイツがこっちに気付いたらあんたを盾にしてでも逃げる。どうする?」


 この言葉が決め手であった。男は首を何度も上下に振り、協力することに同意した。


「なら、あんたはあの兵士達に伝えてくれ。「あの少年が両手を広げたら狼の両サイドにそれぞれ回れ」ってな。それだけ言えば大丈夫だ。」


 結果、レイスの計画はうまくいった。読みが当たったというべきか。彼は陰から狼とそれに対峙する者たちの動きを観察していた。


 地面に倒れている兵士はいるものの、自分がここへ来てからやられた者は居なかった。注意深く動き常に獣の攻撃を避け続け、反撃の機会を(うか)っていたことからも、練度の高さは把握できた。


 そして獣の方も本能というべきか、自分にとって危険度の高い方へと注意を向ける。特にあの少女に。逆に言えばレイスたちの場所を把握していながらも獣はこちらへの警戒心は低いということが分かった。つまりアイツの中では自分たちは警戒されていない。そこを利用しない手はなかった。


 レイスは震える男に獣が少女に襲いかかるたびに指示を出し残った二人へと伝言させ、それが終わると同時に、獣の前に姿を現し、作戦を実行。完全に自分に警戒させて、集中させることに成功した。

 あとはレイスの見立て通り、3人は意図を理解し自分の仕事を全うしたのであった。


 レイスは横たわるロアウルフを見つめながら「出来過ぎたな。」とこぼしたのであった。


「あんた、相当自分の腕に自信があるのか…それともただのバカなの?」


 金髪の少女が疲れのみえる呆れ顔でこちらに向かってくるが、口元には少し笑みが浮かんでいる。


「いや、まぁ賭けではあったけど、これくらいならやってくれるだろうって思ったから。それにうまくいかなかったら次の手を使うまでだったよ」


 レイスは中腰になり、獣が完全に息絶えたことを確認しながら応じた。


「あんたハンターなの?」


 少女が聞き返し、レイスは少女の方へ顔を向けゆっくりと立ち上がり、その問いに答えた。


「いや、ただの通りすがりだよ。」

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