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5.そして彼女は唱えた

(ああ!!もう!本当に割に合わない仕事受けちゃったわよ!!)


 一つにまとめられた金髪をなびかせ、少女はロアウルフの動きを注視ながら動き回っている。

 時折、傭兵の男たちに指示を飛ばしながら自分の雇い主の方を一瞥(いちべつ)したが、どうやらまだ無事らしい。のんきに先ほどここへ来た男と会話をしているのだからあっちは無視してもいいだろう。


「問題は…呪文を詠唱する隙がないことね。」


 少女にとって誤算は傭兵五人のうち二人がロアウルフとの襲撃の際、やられてしまったことだ。森をもう少し抜けられるという緩みがこの事態を招いたことを今さらながら後悔している。

 通常なら傭兵たちに注意を逸らせ、自分は後方から魔法の一発でも当ててやれば簡単に撃退できたのだったが……


「反省はあとね。今は何とか…」


 そう呟いた瞬間、少女を捉えていたロアウルフの眼光が左に向いた。その先にいるのは雇い主となぜか剣を持っているのにも関わらず鞘に剣を納めたまま両手を広げている男であった。

 

(あいつ!死にたいの!?)


心の中で罵声を浴びせたが、男の一言で冷静さを取り戻した。


「エミリア!俺が隙を作るから君は魔法を使え!」


 そんな事が出来ればとっくにそうしている。事実、エミリアは二人の傭兵に注意を向けさせ何度か詠唱に入ったが、すぐにこちらに攻撃を仕掛けられ失敗している。

……ただ、彼の言葉には何故か成功するような予感をさせる説得力があった。まるで魔法の言葉のように。

 

 エミリアはすぐに持っていた短剣を下に向け、柄を先に掌を当て呪文を唱える態勢にはいった。

 ロアウルフを退けるような威力のある魔法の詠唱には十数秒かかるが、その時間を彼に賭けることにしたのだった。


「雷鎚の精霊、我は汝の眷属な…」


 獣は男から目線を外し脅威となる少女に襲いかかろうとしたが、足元に違和感を感じた。


 獣が目線を外したその刹那…

 

 男はその懐まで侵入していたのだった。そして腰に差した剣に手をかけ今にも自分に斬りかかろうとしている。


 今、一番自分の命を脅かそうとしているのは目の前にいる人間。


 ロアウルフは身を翻しながら斬撃を避け、すぐさま爪で攻撃を行おうと体勢を整えた瞬間、両脇に鋭い痛みが走ったのだった。

 ロアウルフは両脇の痛みが広がるのを感じながら見渡すと、逃げ回っていた二人の人間が自分の両脇に剣を突き刺している。それも必死に……

 そしてその二人が離れたと同時にロアウルフにとって最期の言葉が耳に入ったのだった。


「ライトニングランサー!!」


轟音と共に丸太のような光の槍がロアウルフの体を貫き、咆哮が辺りに響き渡った。

 やがて咆哮は力の無い鳴き声となり、光の槍と獣の目からは光が失われていったのだった。


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