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3.そして彼は対峙した

 レイスは身をかがめ、悲鳴のもとに全速力で駆け出した。

 人間、いざというときは脳が最適化されるのだろうか、はたまた彼のこれまでの鍛錬の積み重ねか。

 先程まで慣れない身体でおぼつかない足取りであったが、ここに至ってレイスは自分の身体の認識のズレがなくなっていることに気づいた。

 レイスはさらに加速しながら次の行動を考える。恐らく悲鳴は大人の男のもの。それもあれほどまでの声量となると非常事態であることは明白である。……まぁ何も無いのが一番ではあるが。

 このような状況下で考えられるのは盗賊もしくは獣にでも襲われたのではないかと言うことであった。

車輪の後に続く足跡が自分のもの以外無かったことからも荷車のようなものを牽引している人間が先にいることは容易に想像がついた。

 だとすると、森のような隠れる場所が多く、かつ荷車の組み合わせ…。

 この世界の治安がどの程度かわからないが、魔王という存在がいて、剣が必要な世界なのだから平和ということも無さそうである。


(できれば…獣のほうがいいんだけどなあ。)


 日中かつ舗装されている道とはいえ、森の中、木々が視界を遮る場所も多く、声の主の姿を眼中に捉えたのは駆け出して数十分ほど後のこと。

 正確に言えば声の主を捉えたの襲っているモノを見たあとであった。

 レイスの予想は後者が当たっていた。いや、半分当たっていたというべきか。

 レイスは現場にたどり着くと同時に数秒、動きを完全に止めてしまっていた。走って来たため肩で息はしているものの、彼は目の前の光景を受け入れられなかった。

 一言で言ってしまえば狼だ。そう…レイスの知っている狼より何倍も大きく、毛は赤黒、爪も鉤爪のように巨大で木々の間からこぼれる日光が鈍く反射している。

 そしてその足元には恐らくこの荷車を護衛していたと思われる軽装の男たちが数人横たわっている。

 その光景を頭が処理仕切る前にその狼の眼光がレイスを捉えた。


「横に飛んで!!」


 理解するより早く、レイスはその声に従い咄嗟とっさに左へ体を動かした。

その刹那、レイスがいた場所に上から爪が空気を切り裂く音と共に襲ったのだった。

 あの声がなければレイスは足元の男たちの仲間になっていただろう。

 その声を発した方を見るとこちらを睨みつける少女がいた。

 こちらが声を発する間もなく少女が続けて叫んだ。


「ロアウルフの正面に立つバカがどこにいるのよ!!わかったらさっさと物陰に隠れて!!」


少女はそれだけを伝えると再びロアウルフと呼ばれる獣と対峙した。


 その単語を聞いた瞬間、レイスの脳裏に獣の情報が流れ込むのがわかった。


 【ロアウルフ】

この周辺の森を生息地とする固有種で肉食。滅多に人前に現れることはないが、獰猛であり危険。……


 それだけであった。おそらく一般人にとってロアウルフの情報はこの程度なのであろう。ただ一つ分かったことは一般的にも危険と認識されているということ。つまり今が非常事態というのは理解できただけでも充分であった。


 レイスは獣の後方にいた男が注意を引いた隙にその少女の言う通りに近くの木の後ろに身を隠したのだった。



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