25.そして二人は約束した
「エミリア!?どうしてここに!?」
そこにはエミリアが少し呆れたような顔で立っていた。
「どうしたもこうしたもないわよ。今日は終わったら歓迎会をするって言ったじゃない。なのに仕事を終わらせて宿に行ってもいないからここへ来たのよ。」
レイスが窓をみるとすでに空は暗くなり始めていた。
「ああ、そうか。すっかり忘れてたよ。悪いな。」
申し訳なさそうな顔で謝罪するレイスにエミリアは少しホッとした表情を浮かべる。
「いいのよ。本当はあんたがボロボロにされてるんじゃないかと思って心配で来たわけなんだし。でもさっき聞いたわよ。まさか勝っちゃうなんてね。」
「まぁな。でもドラクロワの膝が悪くなくて、しかも魔法も使われてたら勝ててかどうかわからなかったよ。」
「そんなことはない。それを言うのならお前だって自分の剣ではなかったではないか。愛剣ならばもっと本領を発揮できたのではないか?」
レイスが謙遜しているとそこへドラクロワが割り込んできたのだった。
「あっ、えっとすいません。勝手にお邪魔してしまって。私は…」
とエミリアが言いかけるとドラクロワはそれを手で制した。
「カノープスのリーダー、エミリア殿であろう。噂はかねがね。こちらこそこのような格好ですまない。」
ドラクロワはゆっくりと上体を起こし、エミリアに挨拶を返した。
「レイスよ。謙遜は時として相手を傷付ける行為にもなる気を付けるのだ。」
どうやらエミリアも加わったことで先生スイッチが入ったようだ。こちらがドラクロワにとって外向きの顔なのであろう。
「ああ、そうなのかもしれないけど。実はこれ俺の剣というかなんというか…」
レイスは歯切れの悪い言葉を紡ぐしかなかった。
「お前は剣士だと言うのに剣にこだわりとかないのか?」
ドラクロワはその返答に少し怒気を込めた。剣士が剣を大事にしないなどもってのほかだからだ。それに観念するようにレイスは渋々嘘を混ぜながら答える。
「実は自分の剣は故郷に形見として置いてきたんだ。この剣はその時、その…代わりに持っていけって家族から渡されたもので。」
レイスは下手な嘘を言ったと思ったが、二人は事情があるのだろうとそれ以上は突っ込まなかった。
「それにしても剣士ならば自分に合ったものを持たなければならないだろう。俺の知り合いの鍛冶屋を紹介してやる。気が向けば訪ねてみよ。三番通りにある【ヴァローズ工房】というところだ。」
そう言うとドラクロワはエドガーから紙とペンを貰い一筆書いたものをエドガーに渡した。そしてレイスはエドガーからそれを受け取る。
「ありがとう。ドラクロワの紹介なら信用できるよ。」
「レイスって呆れるほど早く人脈作っていくわね。剣の腕よりリーダーとしてその才能の方が羨ましいわ。」
エミリアの小言を聞きながら苦笑いするレイスを尻目にエドガーがレイスに告げる。
「もうそろそろ痛みも引いたはずじゃ。歩く分には困るまい。ワシももう休みたいのでな。今日は帰ってくれるかの?」
レイスはドラクロワとエドガーに感謝の言葉を述べて、エミリアと医務室を後にした。エドガーの言う通り、痛みはすでに引いていた。そして訓練場の受付まで戻るとそこにはブロックスが待っていたのだった。
「レイス。もう良いのか?」
ブロックスは駆け寄り、心配そうに声をかける。
「ああ!この通りもう大丈夫だ!」
レイスはその場で軽く跳んでみせた。それを見て安堵したブロックスは話しを続ける。
「ならよかった。あのさ、レイス…」
「どうしたんだ?」
「お前の戦いを見て…俺、悔しかった。だからもっと稽古して力をつける。だからいつか俺と戦ってくれるか?」
「ああ、もちろんだ。今度は俺と戦おう!」
そう言うと約束とばかりに二人は軽く拳を合わせた。
「そろそろいいかしら?エリスノー達が待ってるんだけど?」
そう言って訓練場を出たエミリアとそれを追いかけるレイスをブロックスは見送った。
まだ少し暖かさの残る風がブロックスの横をすり抜け、夜の到来を告げる。
所変わり、上下左右の区別なく、どこまでも白い空間でセラがことの成り行きを観察し終えてゆっくりと目を開けた。そして誰に聞かせるでもなく、つぶやく。
「エミリア、ペネロペそしてドラクロワ……。少しはお膳立てしたとはいえ、僕の期待…いや、期待以上だよ、小次郎。」
そしてセラはゆっくりと歩き出す。
「魔法が使えないということはもしかしたら最大の武器になるかもしれないね。でも…」
セラが立ち止まる。するといくつもの光の玉が現れ、そのうちの一つを手に取り覗き込む。そこには荒廃し、火の海に飲まれる国が映し出された。周りの光の玉にも一つは大洪水にさらされる国や地割れによりあらゆるものが飲み込まれる大地、巨大なモンスターにより蹂躙される兵士など凄惨な光景が映し出されいずれの光の玉も燃え上がり消え去った。
「残された時間はそう多くはないよ、小次郎。君が魔王を倒さなければ…また世界が終わってしまう。」
セラは少し目を伏せた後、その場から姿をけすのであった。




