24.そして剣士は喜んだ
「魔王というのは…あの魔王か?封印されてるとかいう。」
レイスの突飛押しもない質問にドラクロワはその真意を計りかねていた。
「ああ、その魔王だ。どうだ?」
ドラクロワはゆっくりと目を閉じ考える。そんなこと今まで考えたことがないからだ。そしてどう答えればいいか思案したが、うまくまとまらなかったのでそのまま伝えることにした。
「わからん。魔王と言うのがどんな存在だったか、伝承でしか知ることができないものを想像するのは難しい。それに倒すというのはどのようなことを指すのだ?命を終わらせるということか?」
「言われてみれば確かに。」
レイスは失念していた。倒せと言われたものの、仮に封印が解かれ戦えたとしてもどうすればいいのか考えていなかった。
ここまで調べた結果、魔王は言ってみれば災害のようなもの。それをどうすれば倒せるというのか。そもそも倒すというのはどういうことなのかということを。
「お前は魔王を倒すつもりなのか?」
ドラクロワがレイスに聞く。その声には茶化すような雰囲気は無く、真剣であった。
「もし、そうだとしたら?」
レイスも同じように答える。するとドラクロワが笑って返す。
「お前は変わった奴だな。本当に。魔王を倒す。そんな子供の戯言のような言葉を聞くとは思わなかった。」
しかしドラクロワは笑いを落ち着かせ言葉を続ける。
「不思議な奴だ。そんな戯言もお前ならやってしまうのではないかと考えている自分がいる。だがやめておいたほうがいいのではないか?」
「どうしてだよ?」
レイスは笑われたのが不満で少し不貞腐れて聞く。
「今は封印されている状態。そのおかげで300年もこの世界は魔王の脅威に怯えずに過ごすことができたのだ。だが、戦うとなればその封印を解かなければならないのではないか?」
レイスは気付かされる。
「封印されたまま倒せるのであればそれでいい。だが、万が一そうではなかった時、お前は魔王を復活させるという大罪を犯すことになる。」
「それなら絶対倒せる方法を見つけてから復活…いや、そんな絶対倒せるなんて保証はどこにもないかもしれない。」
「そういうことだ。今、確実に抑えられる方法があるのにわざわざ復活させて危険を取るなんて奴がどれほどいるか…。例え本当に倒せる手段があったとしても教会が許さないさ。」
その言葉にレイスは飛び起きが、その拍子に腕と足に痛みが走る。
「痛って…」
「突然どうしたんだ!?」
驚くドラクロワをよそにレイスは痛みを堪え、問い詰めた。
「教会が魔王の封印されている場所を知っているのか!?」
その勢いにのまれたドラクロワはたじろぎながら答えた。
「あ、あ…。俺も詳しくは知らないが、どこかの国が管理すればそれを戦争に使ってしまうかもしれないからな。中立な立場を取るマルス教会が管理しているのだ。」
思わぬ収穫にレイスは喜んだ。この街に来て人脈ができ、腕試しも終え、魔王についての情報も集まってきた。
どうやって倒すかなど、まだまだ問題は山積みとなっているが一歩一歩、目的に近づいている実感があった。
「そうか。いや、それだけでも十分な収穫だ。ありがとうドラクロワさん。」
レイスは再びベッドに寝転び天井を見つめた。
「お前は俺を負かしたのだ。特別に呼び捨てでもかまわん。それに試合中は散々、好き勝手に言ってくれたではないか。」
「それはお互い様だろ?」
二人は再び軽口を言い合う。そこへドタドタと足音を立てて入ってきたのはエドガーであった。
「ずいぶんと楽しそうじゃの。我らはお主たちをここまで運ぶのに大変じゃったと言うのに。」
開口一番、二人に向かって愚痴を言い、レイスの患部を確認する。
「うむ。治癒魔法も効いておるわ。もう少し安静にしておれば痛みもなくなるじゃろ。」
「本当にありがとうございます!」
レイスが感謝を述べると今度はエドガーの膝を観察しながら答える。
「なんじゃ?魔法で治したことか?そうじゃな、なら治療費を請求せねばならんな。」
「エドガーよ。イジメるのはその辺にしてやってくれ。」
ドラクロワも苦笑いしながらエドガーをたしなめるが、エドガーの愚痴の矛先はそのドラクロワに向けられた。
「お前もお前じゃ。無理しおって、その右膝でよくやりおるわい。」
「あの〜俺みたいに魔法を使って完治とかできないんですか?」
レイスはできるだけ申し訳なさそうな声でエドガーに聞くと彼は振り向いて答えた。
「回復魔法というのはの。その身体に使えば使うほど効果が薄くなるのじゃよ。すぐにではないが、こやつは何十年も戦い続け、その度に回復魔法を使った結果、ほとんど痛みを消すくらいで効果自体はほぼ期待できんのじゃよ。」
エドガーがひとしきり説明するとため息を一つついた。
「ドラクロワは3日ほど安静にすれば大丈夫じゃ。今回は痛み止めは出さんぞ?しっかり休むといい。」
「ああ、そうさせてもらう。これからの弟子たちとの関わり合い方も考えなくてはいけないのでな。」
そう言うとドラクロワは目を閉じるのだった。
「それとレイスよ。お客さんじゃ。もう入ってよいぞ。」
その言葉をきっかけに馴染みの顔が現れた。
「あら。ずいぶん派手にやったみたいね。」




