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そして彼は剣聖と呼ばれた  作者: 白黒まざる
クレエアでの経験
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21.そして剣士は舞った

 剣の届く範囲のみに視覚、聴覚などの神経を集中し、その領域に入ってくるものを迎撃するドラクロワの難攻不落と言われた守りの構え。それが【鬼門】であり、かつて彼を軍随一の剣の使い手と呼ばせた技でもあった。

 至ってシンプルな技であったが、彼の使う鬼門を破った()()は彼が軍を辞めるまで現れることはなかった。

 そんな彼の代名詞を最後に使ったのはもう数十年前ではある。彼自身もこの技を見世物としてではなく相手を倒すことを目的に使うとは思ってもみなかった。


(大人げないな。)


 一瞬、ドラクロワは自嘲した笑いを浮かべたが、すぐに神経を集中させる。相手の動きではなく、領域に入ってきたモノを叩き潰すそれだけに集中して剣を握る手に力が入る。


 対してレイスは薙ぎ払われた左腕の痛みは少しは引いたものの腫れ始め、疼き、熱を持っている。

 かつて戦った相手の中にも防御を得意とする者はいたが、ドラクロワの反応速度に匹敵するものはいなかった。油断していたわけではない…ただ自分の限界の先をいく攻撃だったというだけである。


(あれなら、対応できるかな…)


 レイスは相手が攻めてこないのを確認してから構え、そして頭の中で何度もドラクロワへと攻撃を仕掛ける。


「よし!」


 木刀を握ると左手に強い痛みが走る。レイスは木刀の切先を床につけ、ドラクロワに攻めかかった。

 ドラクロワの領域ギリギリで足を止めると木刀が床を走るように下から上へとドラクロワの胸に向かって勢いよく打ち上げたが、腰付近で打ち下ろされた木刀が当たり、反動でレイスの木刀が地面を打った。

 そして間髪入れずに今度はドラクロワの木刀がレイスに向かって打ち上げたが、そこにレイスはいなかった。空振った攻撃はさらに右横に回り、攻撃を仕掛けるレイスの木刀を打ち払った。

 つぎにまた反撃を仕掛けようとするとレイスはさらに右横へと位置を変えている。この間、レイスはドラクロワの攻撃が当たるか当たらないかの境目を見極めて移動し続けていた。


 レイスは自分の攻撃に対してあの構えからどのように弾かれるかを予測し、相手の反撃を誘導し相手を中心に右回りに移動していた。そして突進への警戒として必ず前段階として踏み込む足に力を入れるのでその点も注意し、攻撃を続ける。

 数度、仕掛けては避け仕掛けては避けを繰り返してから今度は左側へと動きを変えた。それでもドラクロワはその動きについていき、またすべての攻撃を打ち払うのだった。


 その攻防を見守る弟子たちは息をすることも忘れるように魅入っている。レイスのその剣の扱い、足の動き、体の使い方がまるで踊っているように観衆を惹きつける。


 その中で一人、静かに状況を見定めていたのはドラクロワだった。

 おそらくレイスの思惑はこちらの集中切れによる隙を突くことだろう。こちらの反撃をギリギリで避け、左右に振り。こちらの集中力が切れるのを待っている。

 それでもレイスもあれだけ動いていれば動きが鈍くなり、いずれ捉えることができる。いわば我慢比べ…。油断はしない。その隙ができるまでひたすらに耐えるだけのこと。ドラクロワにとって鬼門とともに幾度となく経験した戦い方であった。


 レイスの攻撃が始まってからブロックスは一つ気付き始めた。左右に振る間隔がまちまちであることに。

 大きく左右に振ったかと思うと今度は小さく小刻みに左右から仕掛けている。一体どんな意図がと疑問が生まれた瞬間、その答えが示された。


 レイスが攻撃を仕掛け、ドラクロワが迎撃し、反撃を行おうとした瞬間、レイスは横に素早くステップし、それを追ったドラクロワが右膝から崩れ落ちた。そして差し出されるようになった顔めがけてレイスは痛む左手に力を入れ直し全力で側頭部へと横薙ぎを当てたのだった。


 レイスの狙いは集中力切れでも体力切れでもなく、一貫して右膝への攻撃。直接攻撃を当てることが出来なくても負担をかけ続けることであった。

 鬼門は必ず相手が動いてから迎撃と反撃を行う。それならと考えたのが攻撃を当てることではなく、防御され反撃されることに重点を置いて、如何に膝に対して負担のかかる動きをさせられるかであった。

 そしてようやく、ドラクロワの古傷が限界を迎えたのだった。


 側頭部を打たれ、なんとか持ちこたえようとしたが、左膝を立て、立ち上がろうとするも右足がまるで自分のものでないように力が入らず言う事を聞かない。

 そして二撃目がドラクロワを襲うがなんとか木刀で防御する。流石に頭付近は頑丈なオーガの特性を持っていたとしても何度も受ければ致命的である。恐らく、鬼門を使う前に受けた時の反応を見て、レイスも頭付近は攻撃が通るということを理解したのだろう。


(何度も受けるわけにはいかない。)


ドラクロワはレイスの木刀を掴み、睨みつけた。そしてそのまま投げ飛ばすが木刀が激しく音を立てて転がるだけであった。

 レイスは投げられる直前に手を離し、次の動きに備え構えていたのだった。

 ドラクロワが転がる木刀からレイスに目を移すと見事な飛び蹴りがドラクロワの眉間を貫き、その勢いで上体が上がり、無防備になった側頭部へと回し蹴りを決め、鬼はついに意識が飛び、その場に静かに倒れたのだった。

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