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そして彼は剣聖と呼ばれた  作者: 白黒まざる
クレエアでの経験
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19.そして少年は思い知った

 ドラクロワの突撃はまるで強大な砲丸が撃ち出されたかのようにレイスを襲った。彼らの距離はほんの数m、レイスは極限の動体視力で動きを何とか捉えはしたが、身体のほうがその反応にはついていかなかった。


“ドン!”


 鈍い音がレイスの身体を走る。身体の前で腕をクロスにし、防御態勢をとったが、弾き飛ばされたのだった。受け身はとったが、床に打ちつけられ、その後数回、転がったところで何とか立ち上がった。


(これはマズイな…)


 レイスは木刀を構え直しながら考えを巡らせる。これまで戦った相手とは根本的に身体能力が違うのだ。相手の情報を整理し、修正しながら戦わなければ勝てる見込みはない。


「踏み込みが足りなかったか、それとも距離が近すぎたか…」


 ドラクロワは今ので決めきれなかった要因を口で分析しながら語るとともに感心していたのだった。


(ぶつかった時の手応えが軽い。)


 レイスは当たると同時に後ろへと自分で跳び、衝撃を逃がしたのをドラクロワは見抜いた。少しでも早くても遅くても意味を無くすその動きを一寸違わず完璧なタイミングでやってのけたのだから。

 ドラクロワが追撃しなかったのはそれに対する報いであり、また警戒からであった。


 たた、この間がレイスにとって息を整え、考えをまとめるのには充分な時間となった。


「さて、どうやって鬼退治するかな…」


 レイスは大きく息を吹き、身体の力を抜いて構える。こちらから攻め入るのは分が悪い。それにこの距離なら相手がまた突撃してきても対応はできる。今は自分の攻撃がどうすれば相手にダメージを与えられるかという問題を解決しなければならない…だが。


“ドンドンドン”


まるで考えさせないように力強く床を鳴らす音が響く。ドラクロワが木刀を引きずりながら駆けて向かって来ている。そして…


“ドン!”


 ドラクロワの打ち下ろしをレイスが右に避け、木刀が床を鳴らした。レイスの前に無防備な背中が露わとなる。


「チャンスだ!」


 道場に着いたばかりのブロックスは攻撃後の隙だらけの師匠の態勢を見て思わず叫んだ。

 しかし、レイスは攻撃を仕掛けず、距離を取る。


「怖気づいたか?」


 ドラクロワはゆっくりと上体を起こしレイスを挑発するが、目の前の少年は口角を少し上げて返答した。


「あんな見え見えの罠に突っ込めないですよ。あらかた、身体で攻撃を受けて反撃でもするつもりだったんじゃないですか。」


 レイスの返答に「フン」と鼻を鳴らし向き合った。そしてドラクロワは距離を詰め、攻撃を再開した。

 木刀で受け切っていたドラクロワとは対象的にレイスは体捌きと足の動きによるフェイントと木刀を軽く当てて攻撃の軌道をほんの少し変えるという様々な手段を使いギリギリで避けていく。

 ドラクロワの方も上下左右、そして前後と木刀の出しどころを変えて追撃していく。

 その二人の動きはまるで打ち合わせをしたかのように美しく流れるようであった。


「なんてやつだよ。」


 ブロックスはその光景を目の当たりにして己の未熟さを痛感する。自信があった。先生に勝てないまでもいつかは届くと。ハンターとしてやっていける…いや剣士として自分は同世代の中では強いはずだと自負していた。それがさっきまで話していた奴が先生の前でまだ立っている。そして先生も自分とやった時はまだ本気ではなかったということも思い知らされた。


「なんであそこに立ってるのが俺じゃないんだ…」


 ブロックスは悔しさを噛み締めながら、そして弟子たちもそれぞれの思いを抱いてこの戦いを見つめるのだった。


 レイス猛攻を避けながら情報を整理していた。ドラクロワの剣術は一見、力任せに映るが、レイスの知っている剣術で言うところの基本に忠実な動きである。そのため比較的、読みやすい。ただ、オーガの力とスピードによりその一撃、一撃は重い。当たるとただでは済まないだろう。

 そしてさっき背中を見せたということはそこに攻撃を加えても大したダメージにはならないのだろう。また、ブロックスの戦いのように突きによる一点に集中した一撃も効かない。ではどこを狙うか…


(とりあえず試すしかないか。)


 レイスは避けながらタイミングを見計らう。そしてドラクロワの右足が前に出た瞬間レイスは攻撃に転じた。右薙をしゃがんで避けた後に右膝の外側を狙って打ち込みすれ違うように移動した。しかしドラクロワは全くひるむこともなくまた攻撃を仕掛ける。


 そしてまたタイミングを見計らい、今度は打ち下ろしを体をずらして避けたあと、右膝の内側に向けて下から振り上げて当て、バックステップで距離をあける。

 今度は突きを引きつけてからかわし、ドラクロワの後ろに回って右膝の裏に突きを加えるなど徹底的に右膝を狙い続けた。


「うっとおしいな!」


 ドラクロワの怒号が飛び、弟子たちは萎縮したが、レイスは尚も攻撃をやめない。しかしドラクロワの方も右膝を庇うような素振りもなく依然として猛攻をし続け、そして…


 二人の距離がほんの少し空いた瞬間にドラクロワは右足を踏み込み、力を溜め、そして爆発的な速度の突進をレイスに向けて放った。

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