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そして彼は剣聖と呼ばれた  作者: 白黒まざる
クレエアでの経験
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18.そして鬼は歓喜した

 間を開けてから息を整え、レイスはドラクロワ…というより改めてオーガという種族を観察する。

 ここまでの試合で人とは比べものにならない硬い体、それが表面だけなのか、それとも内側もなのか…。そして大柄にも関わらず俊敏な動き。隙があると思って打ち込みにいってもあっさりとかわされ、反撃される可能性だってある。そして持久力など…。


 レイスは少し反省していた。剣術の先生を勝手に同じ人間だと思い込んでいたからだ。昨日、エルフに会っているのにも関わらず、その可能性を失念していた。ドラクロワという人物が有名だという情報を集めやすいアドバンテージを自分で無くしていたのである。

 ただ、それ以上にレイスにとって反省の意を抱かせたのが、ドラクロワの剣術がその見た目で自分の修めたものより劣っていると決めつけたことであった。


 一見するとその剣術は荒々しく、洗練されたものではないように思える。しかしオーガということを加味するとそれが最適化されたものだとわかる。そして身のこなし、咄嗟の判断と剣捌きも先ほどの攻防で無駄のない熟練の剣士だと分からせるのに充分であった。


(それを人間向きに落とし込んで弟子に教えてるんだからそりゃあ剣の腕は確かだわな。)


 ブロックスの戦いを見て、師匠としても有能なのだから大したものだと感心し、己がまだまだ慢心していたと考えを改めていた。


「いやあ、俺もまだまだ最強なんて足元にも及ばないんだろうな。」


 レイスの自嘲気味のつぶやきの後、ふと前世の最後の戦いで自分を負かした剣士のことを思い出す。…あの、宮本武蔵を。

 あいつなら…あいつならもしかするとこの鬼に対しても一切、傲慢にならず対峙していたかもしれない。その差があの紙一重の戦いの結末、あの一瞬の隙につながったのではないか。いや、紙一重だと思っていたが、その差は途方もなく開いていたのではないか…と。

 

 同じく、ドラクロワは目の前にいる少年を一人の剣士として見始めていた。初撃に続き至近距離からの頭突きをもかわされ、なおも自分に刃を向けている。そしてその目はなおもこちらの隙を伺っているのだから。

 無論、警戒はしている。なにせあの大魔道士ペネロペが手紙を寄越すくらいなのだから実力はあるはずだと。ただ彼女はたまに好奇心により、未熟な者をこの道場に推薦することもあった。ただ、いずれの訓練生も今では立派なハンターに育ち活躍している。彼女の眼力は認めざるを得ない。しかし…それにしてもあの大魔道士もとい魔法狂いには困ったものだ。とオーガは旧知のエルフに心の中で苦笑するしかなかった。


 互いがそれぞれの思いを胸に改めて対峙する相手に向かった。レイスは力試し以上にあの戦いの答えを見つけるため、一歩、二歩と踏み出し、ドラクロワに横薙ぎの一閃を繰り出す。

 

(速いな。)


 ドラクロワはその横薙ぎを目で追いながら感心する。中段の構えから予備動作も素早く横薙ぎに移行する無駄のない動きからおそらく初見の相手であればまるで急に横から攻撃が来たような錯覚を受けるだろう。


 しかしそれは相手が人間やエルフといった種族ならという話だ。オーガは身体能力に優れた種族。それは体の頑丈さ力強さに注目されがちであるが、目の良さも彼らの特徴である。しかもドラクロワは剣士。その元から優れている上、鍛えられたオーガの目はその横薙ぎの残像すら見逃さないほどはっきりと捉え、その身体能力いとも容易く後ろへ退き、その一閃は空を切った。

 そしてすぐさまドラクロワはレイスの胴に向けて突きを繰り出す。頭より的の大きい胴のほうが避けにくいという判断であったが、レイスは身をかがめ、それを避ける。

 もちろんレイスも剣士として目は鍛えていたが、それに加え実戦で得た経験から導き出される予測により、人より少し早く行動を起こすことができた。その少しの差がこれまで小次郎であった前世の強さの要因の一つであった。

 傍目から見るとその攻防はほんの数秒の出来事であり、周りを取り囲む訓練生はおろか審判役のエドガーでさえ、息を忘れるほどである。

 

 そして突きを避けたレイスはさらに体勢を起こしながらドラクロワに連撃を加える。ドラクロワは本来であればその強靭な身体で木刀程度の攻撃なら傷もつかないので体で受け、反撃するところなのだが、その連撃に乗る気迫に押され思わず、木刀でその連撃を受けた。

 

(こいつ…俺を殺す気で来てるな!)


 ドラクロワに殺す気で来いと言った張本人が一殺気を帯びた攻撃を仕掛け始めていた。その殺気は連撃回数が増えるたびに高まり、致命傷となるような箇所に徐々に精度を上げ、襲う。

 ドラクロワはここでそれまで受けていた攻撃を力任せに弾くとレイスはその力に押され、木刀が届く範囲から離され、連撃は止まった。それでもまた再度仕掛けようと一歩を踏み出しかけた瞬間、思わず嫌な予感がしその足を止めドラクロワを見つめた。するとドラクロワは大きく笑いその攻撃を待ち構えていた。


「どうした?もう終わりなのか?ならば次はこちらの番だな!」


 ドラクロワは左足に力を込め踏み出し、爆発的な突進でレイスへと向かった。

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