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そして彼は剣聖と呼ばれた  作者: 白黒まざる
クレエアでの経験
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17.そして場は整った

 しばらくすると、おもむろにレイスは立ちあがった。


「そろそろ行くのか?」


 ブロックスは真剣な目でレイスに問う。そこには【本当に試合をするつもりなのか?】という意味も込められていた。


「ああ、行ってくるよ。」


 簡単な返事をしてレイスは入り口にゆっくりと歩き出した。そして出口に差し掛かったところで再び、ブロックスが声をかける。


「先生のこと…嫌いにならないでほしいんだ。」


 予想外の言葉にレイスは振り向いた。


「俺が言うのも変かもしれないけどさ。先生は悪い人じゃないんだよ。というより俺がこんなことされたのに先生のこと嫌いになれないんだ。だから…」


「心配しなくていい。まだ会ったばっかりだから好きも嫌いもないよ。まぁ、良い印象はないけど。でも俺はただここに自分の力を試しに来ただけ、それだけだ。」


 そう言い残すとレイスは医務室を出て道場へと向かった。ドラクロワが指定した時間が迫っている。


 道場に着くとそこにはドラクロワが待ち構えていた。そしてほかの訓練生達は壁沿いに並んでいる。


「時間だ、レイス君。」


 その言葉に促され、レイスは道場に一礼してから入り、持ってきた荷物を端のほうへ置いた。


「こちらをどうぞ。」


 訓練生の一人が大小様々な木刀を数本、レイスの足元へと並べた。そして彼はしゃがみ込んで眺めた。


「自分に合うものを選ぶといい。あとで言い訳されても困るのでな。」


 ドラクロワがレイスに言い放つと、レイスは「どうも」と返し、その中から1番長い木刀を手に取った。


「長さは少し短い、ただ重さはちょうどいいか…」


 何度か握り直したり振ってみて感触を確かめる。そして意を決したように立ち上がり、ドラクロワの元へ向かった。


「それでいいのか?もう少し扱いやすい長さのもあっただろう?」


 ドラクロワはレイスの選んだ木刀を見つめる。


「いやいや、これでも短いくらいですよ。でもこれで負けても言い訳はしないので心配はしないでください。」


 レイスは軽く挑発してみたが、ドラクロワは軽く鼻で笑うくらいで意に介していないようだった。


「では、試合のルールだが、どちらかが降参するか、審判が試合の続行が危険だと判断して止めるまででよろしいかな?それとも円を作って場外に逃げられるようにしようか?」


 今度はドラクロワが挑発するような説明をしたが、レイスも軽く頷くだけであった。


「円はいりませんよ。ただ、審判っていうのは訓練生が?」


「いや、今回はこの道場付きの魔道士、エドガーにしてもらう。」


 すると奥から初老の男の魔道士が長いローブを引きずりながら現れた。彼は先ほどブロックスに治癒魔法をかけた者だった。


「この試合はワシが仕切らせてもらう。良いな?」


 その強い意志を宿した目はオーガであるドラクロワ鋭い目つき以上の圧をレイスは受けた。


「では、場は整ったな。レイス君。君の準備はどうかな?私の方はいつでも構わない。」


 ドラクロワはゆっくりと問いかける。


「俺もいつでも大丈夫ですよ。さあ、やりましょうか。」


 レイスはドラクロワを力強く見つめた。すると一瞬、ドラクロワの口の口角が上がったように見えた。気のせいかともう一度レイスが見た時にはすでに元の厳格な表情へと戻っていた。


「両者ともに離れて。そして礼を。」


 魔道士は二人の間に割って入る。そして二人は距離を空けてから礼をする。そしていよいよ構える場面になってからレイスが思い出したかのようにドラクロワに一つの()()()をした。


「ドラクロワさん。出来ればさっきと同じような気迫で戦ってくれませんか?」


「同じような気迫?」


「そう。俺を殺すつもりで来てくれるとありがたいんですが」


 レイスの提案にドラクロワは笑顔を見せた。今度は確実に笑ったのだった。


「そうか。なるほどなるほど…良いだろう。突然現れて戦わせろなんて言うから君には良い印象はなかったが、少しは好意的に見れそうだ。」


「奇遇ですね。俺も同意見ですよ。」


 レイスも笑顔を見せ、そして改めて木刀を構えた。それを見て、ドラクロワも木刀を肩に乗せる。


「お互い、もういいかの?」


 二人は魔道士の言葉に頷く。それを見届けた後、大きく息を吸い、そして…


「はじめ!」


 しゃがれながらも芯の通った声が道場に響く、それと同時に二つの木刀がぶつかり合った。


「ほお…一撃で終わらせてやろうかと思ったが。」


「いやいや、こっちもそう簡単に終わっちゃ困るんで!」


 鍔迫り合いの中、二人は他愛もない会話を交わす。


 始まりの合図とともにドラクロワは飛び出し、肩に担いだ木刀を片手で思い切り打ち下ろした。それにレイスは木刀をほんの一瞬合わせて反りを使っていなし、そのまま振り上げて攻撃に移ろうとしたが、ドラクロワの木刀が地面に当たる前に手首で角度を変え、木刀がレイスの木刀に垂直に当たるように調整し、その振り上げを止めたのだった。


 二人の顔の距離は数センチほどであったが、ドラクロワはおもむろに頭を後ろに引いた。


(マズイ!)


 考えるより早く、レイスはバックステップで距離を取ると間髪入れずにレイスの頭があったところにドラクロワの頭突きが空を切った。危うく角で頭が串刺しになるのを回避したレイスは息を整えて改めて構えを取った。

 道場には暖かな日差しとは対照的に冷たい緊張感が満ち始めていた。

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