表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そして彼は剣聖と呼ばれた  作者: 白黒まざる
クレエアでの経験
47/59

15.そして師匠は見せつけた

 円の中へとブロックスが足を踏み入れると更なる緊張が体中を駆け抜ける。

 目の前には自分よりも遥かに巨大な身体を持つオーガ…それも自分がこの数年、剣術を教えてもらった師匠だ。力を抜けと言う方が難しい。


「ブロックス…お前がここに通い始めて何年になる?」


「えっ…」


 思わぬ師匠の問いかけに拍子の抜けた声を出してしまう。


「何年だと聞いている。」


 師匠は静かに同じ質問を繰り返す。


「よ、四年になります!」


 なんとか振り絞るように出た声はどこかうわずっている。しかし師匠ドラクロワは視線も合わさず木刀を見つめる。


「そうか…ならば無駄な四年を過ごすことになったな。たった一度の過ちで。」


 二人を見守るレイスがまるで他人事ように語るドラクロワを睨みつけるが、ドラクロワは意に介さず、木刀を構える。


「お前の四年…師匠である私が直々に否定してやろう。これが最後の指導だ。」


 その一声の後、空気が変わった。明らかに他三人の時と気迫が違う。


「これは、殺気?」


 これまで、いや佐々木小次郎としてい生きていた前世で何度も経験した感覚。それもエリスノーと戦った時ですら感じなかった暴力的なまでの殺意。


「はじめ!!!」


 マズイかもしれない…そんなレイスの思いと同時に始まりの合図が告げられた。


 しかし始まりは静かであった。ブロックスはこれまでの訓練生と同様に中段で木刀を構えている。対するドラクロワは木刀こそ片手で持ち、切っ先を地面に降ろしてはいるものの、その殺気を帯びた鋭い眼光はブロックスを捉え続けている。二人は互いに見つめ合ったまま動くこともなく、ただただブロックスの息遣いだけが道場に響く。


 まず動いたのはドラクロワであった。木刀を引きずるようにゆっくりと間を詰めていく。対するブロックスはその場で大きく深呼吸をし、待ち構える。

 ドラクロワがブロックスの間合いに入った瞬間、床に木刀を走らせて下から力任せにかち上げた。ブロックスは素早く後ろに下がり、再び距離を開けようとしたが、それをドラクロワは許さなかった。

 先程見せた瞬発力で突進しながらかち上げた木刀を今度は振り下ろす。ブロックスはその瞬間、膝を曲げ、体制を低くし、両手で木刀を握りしめ、そのみぞおちを狙って突きを右膝を狙って繰り出しながら突っ込んだのだった。


 円に入る前にレイスに耳打ちされた言葉。それは「右足、特に膝が悪いかもしれない。」というものだった。

 レイスは大柄の訓練生との試合の際、半身になる際に体重を乗せた右足を試合の後、一瞬引きずるような仕草を見せていたのだった。


“バキッ”


 それは木刀がまるで竹刀のように先端から裂ける音であった。

 ブロックスの突きは相手の膝を捉えた。この緊張感の中、的確に狙い、当て、そしてその勢いに負けることなく攻撃として成り立っている。ただ、ドラクロワの弱点、いや痛めていなかったとしても、本来なら決定打と成りうる膝への一撃は彼の突進を止めることはできなかった。


“ドン”


「ゴフッ」


 低い打撃音のあと、ブロックスは空気を吐く。ドラクロワの膝が胴に命中、裂けた木刀は真っ二つになり、床に落ちていた。ドラクロワの勢いは弟子への膝蹴りでようやく止まり、その場にうずくまる弟子を見下ろした。


「カハッ…ゴホッ…」


 うまく呼吸ができないのかブロックスはお腹を抱えたまま、その場から立ち上がることはできずにいる。


「まだ、勝負はついていないな。」


 確かにまだ、両者ともに円の中におり、降参もしていない。だが、誰が見ても決着はついている。しかし周りは固唾をのんで見守るばかりである。


「おい!もういいだろ!?」


 レイスただ、一人が静寂を破り、叫ぶ。それでもドラクロワはゆっくりと木刀を振り上げ、なおもうずくまる弟子に向かって振り下ろした。


“ドン!”


 打撃音はブロックスの体を通り、床を思い切り打ち鳴らしたように道場中に響く。ブロックスはその衝撃で声を出すこともなく、床に伏せって気を失っているようであった。


「世話の焼けるやつだ。」


 ドラクロワはしゃがみ込み、空の手のほうをブロックスに伸ばす。しかしその手は身体ではなく固いものに阻まれた。


「どういうつもりだ?」


 その手が触れたものは裂けて半分になった木刀であるが、持ち主は弟子ではなかった。


「もう、いいだろ。」


 レイスはその手を木刀で弾く。そして握り直し、ドラクロワを正面に捉え、構えた。


「悪いが客人よ。まだ試合の途中なのだ。」


 ドラクロワもまた木刀を肩に担ぎ、レイスの目を見つめた。しばらく無言の時間が続いたが、ドラクロワは木刀を下げ、レイスに背を向ける。


「そいつはもう破門だ。誰か手当てを。それと荷物もまとめてやれ。」


 そしてドラクロワは円を出て、そして振り返り、レイスを見つめる。


「客人待たせて悪かった。1時間後にここで試合をしようではないか。では、失礼する。」


 ドラクロワは周りがバタバタと手当てや後片付けを始める中、道場を後にし、残されたレイスはブロックスに駆け寄るのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ