12.そして剣士は見送られた
すっかり陽は昇り、街も騒がしくなり始めると三人は立ち上がり、訓練所に向かうことにした。受付にいたブレに挨拶をしようとしたが、事務作業で忙しそうだったので軽く会釈すると、笑顔でこちらに手を振り、また作業に戻るのであった。
玄関を開けると、大通りはせわしなく多くの人が行き交っている。
「このあと、訓練所に行くんだよね?先生に教えてもらったところに。少し休憩していけば?」
「いや、せっかく体が温まったからな。ありがとう。」
エミリアは少し残念そうな顔をしたが、すぐに笑顔を作り、見送ることにした。
「わかったわ。でもあのドラクロワがあなたとすぐ手合わせなんてしてくれるのかしら?」
「ドラクロワ!?」
レディスの大声で行き交う人々の視線を集めたが、すぐに彼らももとの行くべきところへと歩みを戻した。
「ちょっとレディス。びっくりするじゃない。でもまあそうよね。」
「そんな有名な人なのか?」
「いつものやつね。」とエミリアが目を伏せて、首を横に振った。そしてレディスがドラクロワについて話し始めるのだった。
「お前、ドラクロワを知らないのか?三級魔道士で剣の腕は一流。しかも元アヴァリス軍の師団長っつうおまけ付きだぜ?」
「よくわからないけど、なんとなく凄いやつってことはわかったよ。」
レイスは得意の苦笑いで返したが、良いことを聞いた。【三級魔道士】つまり魔法を使う剣士という重大な情報を。そして続け様に質問をすると今度はエミリアが答えた。
「でもなんで元なんだ?師団長っていうくらいだから偉かったんだろ?それともそっちの方が儲かるのか?」
「ああ、それはね。高圧的な態度というか理不尽な指導というか…簡単に言うと嫌な奴で最終的に部下からの反感を買って審問会にかけられて辞めさせられたのよ。」
「そういうことか。でもよくもまぁ自分がハンターになるまではいいとして、そんなやつが養成所なんて、人を育てるなんて出来なさそうな感じなのに。」
その質問の答えに割って入ったのはレディスであった。
「性格は終わってるが、実力はあるし元とは言え剣も魔法も使えて、その上師団長にまで登り詰めた男だ。教えを請う奴はいるもんさ。それに養成所を開けば依頼を受けなくても金は入ってくるしな。ハンターだって生活の為にやってたって言うくらいだし。」
「えっ?話したことあるんですか!?」
レイスは少し前のめりにレディスの方へと顔を近づけた。
「おいおい、もう敬語は辞めろよ。タメ口でいいから。……ああ、まあ15年くらい前か。奴がハンターになったばっかりの頃にな。ギルドであった時に少し話したんだ。」
「「それで?」」
レイスとエミリアが同時に聞き返した。
「いや、そんな大した事は話してねぇよ。ただ、奴は有名だったからな良い意味と悪い意味でな。それで興味本位でどうしてハンターに?あんたなら他に就職口くらいあるんだろ?ってそしたら…」
「「そしたら?」」
「他に出来る仕事なんてないから仕方なくって言ってたよ。それとハンターなら野盗や魔獣相手に憂さ晴らしが出来そうだってすげぇ冷たい目で話してたよ。」
レディスは怖い話でもするかのように声のトーンを下げて二人に思い出を話した。
「ペネロペ先生もよくそんな奴のところへの紹介状なんて書いたわね。」
エミリアは少し不満そうにつぶやく。それとは対照的にレイスはどこか嬉しそうであった。
「嫌な奴だろうと剣の実力はあるってことだろ?なら自分の力を試すにはちょうどいいさ。」
「なんだ?俺じゃ役不足って言い草じゃねえか。」
今度はレディスが不満そうに答えた。レイスは慌てて取り繕ったが、レディスもその様子を見て「冗談だ」と返す。
「まぁ、そうだな。一緒に依頼をこなしたことがあるが、その時見た奴の実力は本物だったぜ。俺が保証する。ただ気をつけろよ、勝つ為なら何でもするような奴だからな。」
「わかった。肝に銘じておくよ。それじゃあ行くか。」
「行ってらっしゃい。仕事が終わったらスターシャさんところで待ってるからまた夜ご飯食べましょうね。レディスやエリスノー達もも連れ行くから。」
「え?俺はいいよ。二人で食べればいいじゃねえか。」
「だめ。これはリーダー命令よ?歓迎会も兼ねてるんだから。」
やれやれといった表情のレディスと笑顔のエミリアに見送られてレイスは教えてもらった養成所へと向かった。
そして半時間ほど歩いていると大通り沿いに【ドラクロワハンター養成所】と書かれた看板をあげている建物についた。
赤い屋根を乗せた堂々した風格のある大きな木造で道場のようなたたずまいはレイスにとっては少し懐かしさを感じるような外観であった。
入口から屋内に入ると床一面は木の板で敷き詰められ、外から見るより天井は高く感じられる。玄関付近と奥の部屋は壁で仕切られており、その壁の向こうから稽古中と思われる何十人の掛け声が聞こえてくるのだった。
そして左手には受付と書かれた木製のカウンターがあり、そこには身なりをきれいに整えた女性がこちらに笑顔を向けていた。




