11.そして斥候は敗れた
「取った!」
レディスの攻撃は的中したと思われたが、手応えはなかった。
レイスは剣を振り被ったものの、自分の右足を一歩を踏み込むのではなく逆にすり足で引いたのだった。
レイスが見ていたのは相手の木刀の持ち方である。
レディスが木刀を右手の逆手で構えた瞬間を狙い攻撃を仕掛けた。その持ち方なら自分の右へ抜けるだろうという予測を立てて…
そして当たるべき目標を失った剣は空振りレディスはすぐさま次の行動に入るべく、レイスを見ると、足を引いたことによってレイスの正面がこちらを向き、まさに木刀を打ち下ろす瞬間であった。
「あぶねー!」
大きな声とは裏腹にレディスも冷静に木刀をの刃の部分を当て、その反りを利用して直撃をいなし、レイスの木刀は勢いよく地面を打った。そしてレディスは低い体勢から足を狙い、蹴りを繰り出し、レイスの右足を刈り取ったのだった。
レディスが勝ちを意識した瞬間、首に強い衝撃を受け、レディスは目の前が真っ暗になりそのまま気を失うのだった。
数分後、レディスは意識を取り戻した。夜間に冷やされ、それが朝日によって暖められた朝の空気がレディスの肺を満たし、まだハッキリとしない視界が段々と明瞭になっていく。そして二人の若い男女が心配そうに自分の顔をのぞいているのに気がついた。
「あっ、どう?大丈夫?」
少女の通る声がレディスの耳を通り、頭も覚醒していく。
「ああ、大丈夫だ。」
レディスは無意識に首の付け根付近に手をやり、なでる。そうだ、俺はここを殴られてそれで…
「すまない。思ったより勢いがつき過ぎて。」
少年が申し訳なさそうな顔でレディスに詫びる。その手には自分を仕留めた木刀を握りしめて。
「いや、本気でって言ったのは俺なんだ。お前が謝ることじゃない。それにしても、いやぁ…鈍ったもんだな。俺も。」
それはレディスの強がりも含んだ言葉であった。確かにここ最近は比較的楽な仕事を選んでいた。年齢から来る保身なのかそれともベテランと言われることで失敗することを恐れた結果か…
しかし、それを抜きにしても自分とこの少年の間には明確な実力の差があることも自覚している。それでも意地なのかそれを認めたくない自分もいた。
「それで…俺はどうやってやられたんだ?」
レディスは苦笑いしながら二人を顔を見る。そしてそれに答えたのは全体を見ていたエミリアだった。
「あなたがレイスの足を蹴ったでしょう?そしたらその勢いを利用して駒みたいに自分の体を回してあなたの首に木刀を叩きつけたのよ。回転斬り?みたいな感じかな?」
エミリアは水をレディスに渡しながら説明をした。レディスはその光景を頭の中で再生し、納得したような顔を浮かべた。
「なるほど、死角から、いや、意識の外からの攻撃か。技術、発想力もだが、体幹も筋力も良く鍛えているな。」
レディスが渡された水を一気に飲み干し、改めてレイスの全身を観察する。するとレイスはゆっくりと何かを思い出すように話し始めた。
「実は、俺の師匠が脇差し…短い剣の達人だったんですよ。だから嫌というほど戦い方を教えられたので……その…一番戦いやすい相手というか…」
レイスは少しバツの悪そうな顔で話すのを見て、レディスは思わず吹き出しそうになった。
「そうかそうか!俺にとっちゃ相手が悪かったってことか。どおりで剣士のくせに俺の蹴りに反応したわけだ。」
「剣士のくせに?」
レイスは少しその言葉にひっかかりを覚えた。
「ああ、剣士みたいな自分の技術…剣なら剣術か。そういうのを極めようとする奴は自分の技や作法にとらわれやすい。だが俺たちは違う。剣もただの武器だ。相手を制する手段の一つでしかない。だからこそ…」
「だからこそ、あらゆる状況に対応できるようにしなければならない。…って感じですかね?あっすいません!」
レイスはレディスの言葉を無意識に取ってしまったことを謝ったが、レディスは少し驚いたような顔をする。
「へぇ。話が分かるじゃねえか。」
「試合ならそうでしょう。技術を披露し、作法を重んじる場所ですからね。でも俺達の剣術はそうじゃなかった。生き死にのかかった戦いの中で生まれた技術。そこに卑怯も何もありませんよ。」
「そうか!そうか!いやあ、気に入った!」
レディスは大声で笑い、そして自分の負けを素直に受け止めることができたのであった。
「え?どうしたのよレディス?今の話で笑うところなんてあったの!?」
困惑するエミリアはレイスに助けを求めようとしたが、なぜかレイスも笑っている。
「いや、本当に良い準備運動になった。準備というより真剣勝負に近い試合ができた。エミリア、ありがとう。」
「まったく…一体なんなのよ。いいのよ。私だって良いもの見せてもらったとは思ってるんだし。ちなみにだけど…あんたの師匠ってレディスより強いの?」
「ああ、ええっと…」
レイスが答えづらそうにしているとレディスも「正直に言え」とこちらに圧をかけてきたので渋々答えた。
「正直に言うと師匠のほうが強いです。しかも盲目で…」
その答えにエミリアは驚き、レディスは落ち込むのであった。




