10.そして男は誇りをかけた
「おいおい、ちょっと待て!何の話だ!?」
レディスはさっきまでの余裕のある大人の表情から一転して驚き、声を上げた。
「え?言ってなかったっけ?実力を見たいから朝、ここに来てって言ったつもりだったけど…?」
エミリアはキョトンとした顔で答える。
「あのさ…俺も準備運動に付き合ってやるって言われてきたんだけど…ああ、そういうことか。」
レイスは一連の流れでこの状況を察した。そして同じくレディスもレイスの言葉により何処か腑に落ちたような顔をする。
「どう?一石二鳥でしょ?」
エミリアは笑顔で二人の顔を見る。男二人にとっても特に損するようなことではないのでその笑顔に従うしかなかった。
「それで、俺たちは何をすればいいんだ?手っ取り早く戦えばいいのか?」
「ええ。そうよ?はい、これ。」
レイスは冗談っぽく聞いたがどうやら正解だったようだ。エミリアは壁に立てかけていた大小二本の木刀をそれぞれ二人に渡した。小さい方をレディスに、そしてもう一本をレイスが受け取った。
「え?エミリア、俺のは良いとしてもあっちの木刀、短いぞ?」
「俺はこれでいいんだ。よく覚えてたな。」
「当たり前よ。うちで働いてもらうんだから従業員のことはちゃんと知っておかないと。」
レイスの木刀が一般的な長さだとするとレディスの木刀はその三分の二ほどの長さであった。
そして受け取ったレディスはその短い木刀を器用に手のひらで回したり、両手に持ち替えて感触を確かめる。
「一応ルールとしては私が止め!って言ったらやめてね。」
エミリアが二人に説明を終えると二人から離れたところにあるベンチに腰掛けた。
「さてと…少年。いや、レイスだったか。大人げないと思われるかもしれないが、一昨日は情けないところを見られたからな。全力でいかせてもらうぜ。」
「俺もそうしてもらえると助かります。」
その言葉に嘘偽りはなかった。自分の剣士としての実力を測れると感じたからだ。先ほどの木刀の扱いからして手練だと思われる。だからこそエミリアは練習相手としてレディスを用意してくれたのだろう。
この世界に来て初めての…まぁ木刀ではあるものの剣を合わせる戦い。レイスは不安と同時に心が躍るのを隠しきれず、思わず笑みがこぼれた。
そしてそれと対照的にレディスはさっきまでの驚いたり笑ったり感情豊かな親しみやすい印象から冷たく、緊張を伴った目でレイスを捉えている。
レディスにとっては因縁の相手である。昨日、エミリアが誘いに来た時に、あの罠を張ったのがこの目の前にいる少年だと聞かされていた。
“ベテランのレンジャーが少年の考えた罠にハマって捕まった。”
そんな笑い話にもならないような事の当事者に自分はなってしまったのだ。それでもエミリアは自分を雇ってくれたのだ。少しでも自分が使えるということを見てもらいたいという気持ちと今度は少年側の領域で自分が打ち負かしたいという願望…その両方の思いは壮年の男を本気にさせるには十分な理由であった。
「では…はじめ!!」
エミリアの声がまだ朝日が昇ったばかりの空に響いた。しかし二人は構えたまま睨み合い、2mほどの距離を保ったままであった。
レディスは腰を落とし、目の高さで剣を右手で持ち、水平に構えている。左手は剣よりも低い位置で相手との距離を測るように構える。
対するレイスはエミリアと戦った時に見せた構えではなく、両手で剣を握り剣道のように正眼に相手に捉えている。
(なんだ…あの構えは…初めて見る流派だな。)
レディスは相手の様子を伺いながら、初めて見る構えに思考を巡らせる。初めて見るとは言え、その構えからどのような動きが来るかはある程度予測がつく。問題はその選択肢を間違えないことであった。
(あの構えなら基本は上段斬り、そして顔面への突き、または胴への横薙ぎといったところか…あんな堂々と正面に構えられちゃ逆に攻めにくいねぇ…)
レディスはゆっくりと木刀の持ち方を変えながら、足をクロスさせ、レイスの横に回り込む。そしてそれに追従するようにレイスも相手を正面にとらえ続けている。そしてレイスも同じく、相手の分析をしているところであった。
(小回りの利く小ぶりな剣、そしてレンジャーという性質上、剣を打ち合わせるというより、相手の懐に入り、一撃で決めるような戦い方をするのだろう…)
ただレイスにはもう一つ、分析する以外に相手に打ち込めない理由があった…それはレディスが魔法を使えるかどうかである。ここまで戦った相手はいずれも魔法を使用する者とばかりであったが、先に相手の手の内を見ることができた。しかし今回はまだレディスという男の実力を見ていない。
(さて…どうしようか?)
お互いが動きのきっかけを探り合いながら数分が過ぎる。そして先に動いたのはレイスの方であった。
レディスが足を組み替えた瞬間、レイスは構えを大きく後ろに反りながら距離を詰め、レディスに一撃を加えようとした。
しかしレディスもクロスさせようとした足を戻し、さらに深くかがみ、斬り掛かってきたレイスの足を狙い左横を抜ける動きを見せた。
その瞬間をレイスは狙っていたのだった。




