7.そして剣士は改めた
噴水に溜められていた水がみるみる減っていき、周囲にはどこからか強い風が吹き始めた。
レイスはあまりの環境の変化に戸惑い、エミリアはどこか心配そうな表情を浮かべ、ペネロペは無邪気にはしゃいでいる。
「さぁ!見るといいわ!これが二級魔法よ!」
ペネロペの宙に向けた両手には大きな青い魔法陣が浮かび、激しく発光を続けている。
「なぁ、エミリア…これって大丈夫なのか?」
不安な表情のレイスが同じ顔をしているエミリアに尋ねる。
「ええ、たぶん…おそらく…」
その声が聞こえたのか、ペネロペは振り返る。
「心配しないでいいわよ。最低出力で発動させるから!いい?いくわよ!」
するとペネロペは顔をこちらに向けたまま、片手を離す、すると魔法陣も小さくなり、発光も収束し、落ち着き始める。そして魔法陣の浮かぶ手を振るとすぐさまその魔法陣は噴水の真上に移動し、覆いかぶさるように広がった。
「レイス、早くこっちに来て!…【アクアドーム】」
レイスが声に促されるようにエミリアの近くに行くと、エミリアは間髪入れずに水の球体を自分たちとペネロペそれぞれを覆うように作り出した。
その瞬間…
魔法陣から水を纏った巨大な一つの竜巻が轟音を伴い、現れ、魔法陣と噴水の間に水柱を作る。そしてその竜巻により噴水は破壊され、周囲に残骸が飛んだが、エミリアの出した水のドームのおかげで当たることはなかったが、大きな音と水柱を上げた後に見るも無残な姿へと成り果てていたのだった。
轟音と霧が晴れるとエミリアは魔法を解除し、レイスはその光景にただただ驚愕するしかなかった。
「これが、二級魔法?しかも最低出力って…」
レイスは目の前の出来事を現実と受け止めるまでにしばらくかかった。これまで見てきた魔法は初見でもどうにか対処できる範疇ではあったが、これはその範囲を逸脱するものだ。発動されれば勝ち目なんてないように思える。
レイスが愕然とする中、エミリアも別の意味で愕然としていた。
「先生!どうするんですかこれ!?」
音を聞きつけてかそれまで人気なかった広場に次々と野次馬が駆けつけ、周りを見ると建物の窓から何人も顔を覗かせ、噴水に注目している。
「まぁ、ちょっとやりすぎたかなぁとは思うよ?でもほらちょっと待ってね。【リベイジョン】」
ペネロペが照れ笑いしながら粉々になった噴水に手をかざすと今度は黄色い魔法陣が現れ、優しく噴水を覆うと周りに散らばった残骸が浮かび、元あった場所に移動する。そして数十秒後、元の形に戻った噴水が現れた。ただし無数のヒビが入っているので、ところどころから水が漏れ出ている。
「こ、これで取り敢えずは…ね?」
照れ笑いから作り笑いになったペネロペを呆れた顔でエミリアは見つめるしかなかった。
「先生…もし最大出力ならどの程度の威力になるんですか?」
レイスは言い訳を考えているペネロペに尋ねると、少し嬉しそうにこちらを向け答えた。
「そうね。もし海の近くでかつ私の体調が万全ならこの街全体に数十分、もう少し大きな竜巻を十個くらいは作れるわね。……そんなことよりご飯行くんでしょ?ほら!いきましょう!」
ペネロペに2人は腕を掴まれ、校門のほうへと歩き出す。レイスは未だ野次馬に囲まれているボロボロの噴水を振り返り、魔法についての認識を改めていたのだった。
後日、ペネロペは学術院から呼び出しを受け、半年の給料の減額と奉仕作業が言い渡されたのだった。
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後日、絶望することとなるペネロペは上機嫌に夜のクレエアの街を闊歩し、スターシャの店へと向かうのだった。
「先生?本当にあのまま放っておいて大丈夫なんですか?」
エミリアの問いかけにペネロペは「大丈夫!大丈夫!」と手を振って答える。
「わたしは知りませんからね!ねぇ、レイスもさっきから黙ってどうしたの?」
レイスはハッと我に返り、苦笑いをする。もちろんさっきの魔法に度肝を抜かれたのもそうだが、この二人のやりとりがレイスにとって悩みとなっていた。
二人の様子から察するにあれは驚くほどのものじゃないということだ。
二級魔道士自体は少ないとは言え、彼女らにとっては見慣れた光景ということだ。
「俺って本当にツイてたんだな。」
レイスは考え抜いて行き着いた答えを呟いた。それは焦りを含んだ言葉であった。
「そうですよ?二級魔法なんてそうそう見れるものじゃないんですからね!」
ペネロペが得意げにこちらに笑顔を見せてくる。するとふと、レイスはエミリアの言葉を思い出した。
「そういえば…秘術級魔道士って?」
この問いかけに答えるのはもちろんエミリアではなくペネロペである。
「秘術級というのは一級魔法を習得した上で新しい魔法を開発した魔道士につけられる称号のことです。この国に4人しかいないんですからね!」
レイスは改めて自分の運の良さに感謝すると同時にこれもセラの仕組んだことなのかと勘繰りながら笑い返すしかなかった。




