6.そして魔道士は披露した
三人が研究棟を出ると既に太陽は地平線に消えようとする間際であった。あれだけい人影もまばらであり、外灯が院内を照らしている。
「はぁ…ふうー。やっぱり外の空気はいいわね。」
「うーん、ああ、そうだなぁ。」
深呼吸するエミリアと伸びをするレイスに共感できないといった顔つきのペネロペが二人の後ろに続く。
「そんなもんですかね?私は本や資料の匂いに囲まれてるほうがいいんですけどね。」
「駄目ですよ先生。ただでさえエルフ族は私たちと時間の感覚が違うんですし、先生は集中するとそれこそ…」
これではどちらが年長者か分からないなとレイスは二人のやり取りを見つつ笑う。エミリアは根っからの世話好きなのだろう。昨日の一件にしても、レイスのことにしてもそうだが、組織を束ねる者としては最適な人物だろう。
「ところでエミリアはいつからペネロペ先生から魔法を教えてもらったんだ?」
レイスはふと思ったことを口にした。
「エミリアさんとはほんの10年前ですよ?」
「先生?10年も!ですよ?」
エミリアの言う通り、エルフと俺達は時間の感覚が違うらしい。教室から外に出るまでの間にエルフ族について二人から教えてもらったことをまとめると…
エルフ族の寿命は500年から600年ほど、最初の20年ほどで身体的な成長は止まるが、その成長具合は様々らしくペネロペ先生のように子供のような見た目から、老人のようなエルフもいるという。それでもエルフ族は共通して緑色の瞳を持つ。それから寿命が長いからか出生率が低く、それほどエルフ族の人口は多くないとのことだ。そして、一番の特徴は魔力の操作に優れている、つまり魔道士として高い素質を持つという点であった。
「10年前ってことは7歳からあの授業受けてたのか!?」
レイスは感心した様子でエミリアを見るが、いつもの彼女なら得意気な表情を見せるのに今回は違うようだ。
「まぁね。でも今から同じようにって言われたら絶対無理よ。あの時は子供だったからそれが普通だと思ってたから…。よく私も逃げ出さなかったわよ。」
エミリアは何かを思い出し、身震いを始めた。どうやら触れてはいけない過去に触れてしまったらしいが、ペネロペはまた不思議そうな顔をする。
「そんな厳しい教え方した記憶はありませんよ?ちょっと大袈裟過ぎるんじゃないですか?」
「どこの世界に9歳の女の子に二級魔法なんて教える魔法の先生がいるんですか!?」
エミリアは思わず声を荒げたが、ペネロペは全く意に介さず笑っている。
「そういえばエミリアは二級魔道士って言っていたけど…それってどれくらい凄いんだ?あ…えっと、教えてくれると助かる。」
レイスは申し訳なさそうにエミリアに聞いたが、答えたのはペネロペであった。どうやら魔法についての質問はすべて答えたいらしい。
「その名前の通り、2つ以上の二級魔法を使える魔導師ってことですよ。二級魔法はそうですね…ハンターのレイス君に分かりやすく言うと戦場の戦局を変えることができる魔法ですね。」
「戦局を変えられる?」
「ええ、エミリアさんは10代で水の二級魔法を4つ習得しています。これはこの学術院の歴史でも数人しかいませんよ?」
「つまり、二級魔法を使える魔道士は少ないってことでいいんだよな?」
「そうですね。二級以上の魔道士は全体の三割ほど、10代で言えば現在はエミリアさんだけですよ?」
レイスはエミリアのほうを見ると今度は得意気な顔で腕を組んでこちらを見ている。ただ、レイスとしてもエミリアが注目を集めるのに納得するしかなかったが、一つの疑問も浮かんだ。
「なら、ロアウルフの時にその二級魔法は使えなかったのか?」
その一言で口を開いたのはエミリアであった。
「そうね。あそこじゃ使えなかったのよ。水の魔力が少なすぎてね。」
「レイス君は二級魔法が見たいんですか?」
二人の話の間にペネロペが割って入る。
「え、あ…まあ、見たいといえば見たいですけど…。」
その一言がペネロペのスイッチを再び入れたのだった。そしてエミリアはまた手を顔に当て、俯いている。
「ではコチラへ!エミリアさんも行きますよ!」
またペネロペはレイスの腕を掴んで今度は人気の少なくなった行きがけに見た噴水の前に三人はやってきた。
「先生?もう今日はいいんじゃないですか?ほらお腹も空きましたし…」
「まぁまぁまぁ、ご飯はどこへも逃げませんし、先生としては魔法に熱心な生徒を放ってはおけませんからね!」
「えっと、俺は…」とレイスは言いかけたが、ペネロペの威嚇により口を閉ざした。それに二級魔法も見たくないわけではなかった。
「じゃあいきますよ!あっでも威力は抑えますけどね。」
「え?先生がやるんですか?ということは先生も…」
「ペネロペ先生は二級どころか【秘術級魔道士】よ。」
エミリアからまた新しい単語が出ると同時にペネロペの身体が青白く光り始めた。
「遍く水の精霊よ、大海の調べをここに響かせよ。【アパーム・ナパート】」




