5.そしてエルフは語った
「…レ…イス!レイス!」
まどろみの中、エミリアの声が段々とはっきりと聞こえてくる。
思ったよりも脳への負担が大きかったらしくレイスは机に突っ伏したまま眠ってしまっていたらしい。
「ん…うん…ああ、エミリア…寝ちゃってたのか…。」
レイスがゆっくりと体を起こす。ぼやけた視界で周りを見渡すと自分が今いる世界というのが元の世界と大きく違うということをあ改めて実感する。そういえばこの部屋は物で溢れかえっている割には明るいことに今更ながら気付くと見えてくるものが変わる。
部屋のあちこちに光を放つ鉱石が置かれているのだった。レイスは近付いて鉱石を観察し始めた。
「それはグロウストーン。鉱石のなかに魔力が宿っていてそれが光ってるのよ。」
「へぇ。綺麗だな。」
「そうね。でもそれ扱いが難しいのよ。だからまだまだ世間的には普及してないし。」
エミリアもレイスに近づいてグロウストーンについて話していると後ろで物音がしたので二人とも振り返る。
「あらあら、お邪魔だったかしら?」
そこには一冊の本を小脇に抱えたペネロペがニヤつきながら教室に入ってくるところであった。
「やめてくださいよ先生。ところでその本は?」
「新しい私の生徒へのご褒美といったところですかね。レイス君の期待に添えるものかどうかわからないけど。」
そう言うとペネロペは机に本を置くとゆっくりとページをめくり始める。レイスとエミリアも再び椅子に座りその様子を見守る。
「ありました。ここです。」
ペネロペが指差した先には【魔王の発生とその考察】という項目が書かれていた。
「これは500年前、魔王が封印された時に当時、魔王討伐隊に参加していたエルフ族の魔道士が残したものよ。今はどこにどうやって魔王の魔力が封印されているかは重要機密として秘匿されちゃってるから調べたりはできないの。だからこれが私が教えられる魔王に関する全ての情報よ。読んでみる?」
ペネロペはレイスが読めるように本を向けて寄越した。レイスは礼を述べ、早速読み始める。
「魔王は意志を持った魔力から構成される存在であり、我々が知るどの生物とも根本的に異なる性質を持つ…」
レイスがエミリアにも聞こえるように音読すると横で黙って頷いている。
「魔王は食事や睡眠を必要とせず魔力をそのエネルギーとして利用し…」
レイスはそこまで読むとゆっくりと深呼吸する。
「レイス君、簡単に私が要約しようか?もちろん手短に。それにまた来た時にゆっくり読ませてあげますよ。」
ペネロペは講義で疲労しているレイスを気にかけるように話しかける。
「じゃ、じゃあ…お願いします。」
レイスは内心ホッとしながら椅子に座り直した。
「では…魔王は意志を持った魔力で構成された魔力の王と呼ばれる存在で、初めて現れたのは2000年ほど前と言われています。」
「そんなに昔から!?」
座り直した椅子から思わずレイスは立ち上がる。
「びっくりした!大きい声はやめてくだいね?じゃあ続きを話しますよ。」
ペネロペはレイスが座り直すのを見届けてから言葉を続けた。
「魔王が現れると一体の魔力を吸収し続けます。そしてその魔力を利用して災害を引き起こしながらこの星を巡ります。そして一定期間活動すると、消失する。それを繰り返していたのです。」
「繰り返す…つまり封印したのはその繰り返しを止めるためってわけか…」
「そういうことです。魔王が現れてから消失するまでの期間はまちまち、最短で4年、最長で17年間いたこともあるそうです。」
レイスは納得したように天井に顔を向けると同時に別の思考がめぐる。
(さて…魔王を倒すなんてどうすればいいんだろうな…)
「あの、先生?私もレイスに言われてから疑問に思ったんですけど、魔王を完全に消すことってできないんですか?」
唐突にエミリアがペネロペに質問をぶつけるとペネロペは難しい顔をしながら答えた。
「そうですね。私も実際、魔王の魔力というものを見たことがないのでなんとも言えませんね。ただ…」
「「ただ?」」
二人が乗り出してペネロペの次の言葉を待った。
「ただ、魔王が復活するのを防ぐのに封印したと言いましたが…この本にの著者は一つ気になることを書いているのです。【封印は愚かな選択だったかもしれない】と。」
「封印が間違いだったってことですか?」
レイスの質問が静かな教室に響く。
「私も引っかかったのでこの本を隅々まで読んで、さらにこれ書いたエルフのほか著書も読んだのですが…残念ながら何も分かりませんでした。」
ペネロペは残念そうに目を伏せ、ゆっくりと本を閉じた。するとエミリアがこの重い空気を変えようと口を開いた。
「先生。もう遅いですし一緒にご飯でもどうですか?どうせ研究ばっかりでまともな食事取ってないんじゃないですか?レイスも行くわよね?」
「俺は…」と言いいかけたレイスの腕をエミリアは強引に掴み上げ、その勢いに押されたレイスも渋々ながら了解した。
「そうね。もうこんな時間だし久しぶりにちゃんとしたものでも食べに行きますか。」
ペネロペもエミリアの提案に笑いながら乗ることにしたのだった。




