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そして彼は剣聖と呼ばれた  作者: 白黒まざる
学園都市クレエア
36/43

4.そして講義は開かれた

 ペネロペ=ウォール=ペンタグラム…


 その名前を魔術界において知らぬ者はいないという。その事をレイスが知ったのは学術院を後にしてからであった。


 ー彼女に教わることは名誉である。しかし彼女の熱意についていくのは至難であるー


 これは彼女の教え子であり、現学術院の学長となった男が答えたインタビューでの言葉である。


ーーーーーーーー


「さあ、レイス君!ようこそ我が教室へ!」


 ペネロペに腕を掴まれ強制的に案内されたのは研究棟の四階、一番奥の角部屋であった。

 ここへ連れて来られる間、すれ違う人たちの注目を浴びることになったが、気のせいか何人かは哀れみの目を向けていたような気がする。


“ドン”と勢いよく明け放たれた木製ドアの先には()()()()軽く人が2、30人は入れるほどの広さがあると思われる部屋に書類や本が折り重なるように積み上がり、乱雑に置かれた机の上には実験器具のような道具が置かれ、時折部屋のいたるところで物音がする奇妙な空間が広がっていた。


「えっと…ペネロペさん?俺、ここで何されるんですか?さっきのことは謝りますから許してもらえませんか?」


 レイスが不安げにペネロペに許しを乞うが、そんなことも気にせず、かろうじて床が見える一本道を歩いていく。


「何も取って食べようなんてしませんよ?それに私は年上が好みなので。では講義を始めましょうか!」


 ペネロペはわずかにあった空間に椅子を2つ用意し、そこにレイスと苦笑いするエミリアを座らせ、自分は向かいにある黒板の前に立った。身体が小さいので台の上に立っているものの、どうやら上の方は手が届かないらしく、書き残しがちらほらのこっている。


「なぁ、エミリア。俺たち書庫に行かなくていいのか?」


「もう今日は無理ね。先生、スイッチ入っちゃったもん。」


 ペネロペが手の届く範囲の黒板を消している最中に二人がコソコソと話していると突然振り返った。


「講義中の私語は厳禁ですよ?忘れましたかエミリアさん。」


 注意を受けまた苦笑いするエミリアは周りを見たあとに恐る恐る質問する。


「先生…私がいた時はもう少しきれいだったような…それに空気の入れ替えとかもしてますか?」


「もう私の研究室じゃあ資料やらなんやら納まらなくてね。仕方なくこっちに少しだけ置いてるだけだよ。それに空気の入れ替えだってほら、そこの魔道具できれいにしてるから問題ありませんよ?」


 そう言って指を差さした先には見慣れない箱が微妙に振動していたのだった。


「ほら、魔法について知りたいんですよね?なら講義を始めますよ?」


 そう言うとペネロペはペンとその辺にあった書類に目を通した後に何も書かれていない面を上にしてレイスに渡した。


「えっと…これは?」


「講義なんですからちゃんとメモを取らないと帰ってから復習できないでしょ?あっエミリアさんはもうわかってる部分だから邪魔しない限りは自由にしてて良いですからね。」


 そこからみっちり6時間、ペネロペの魔法講義が始まったのだった。


ーーーーーー


「ということです。分かりましたか?」


「は、はい。ありがとうございました。」


 レイスは震える手からペンを横に置くと大きく深呼吸をする。唯一の休みはスターシャからもらったお弁当を食べる時間だけであった。そしてほぼ持ちっぱなしであったそのペンの横には十数枚のメモが出来上がっている。


「レイス、すごいわね。良く先生の最初の講義を乗り切ったわ。普通はここでほとんどの生徒が脱落しちゃうのに。」


 エミリアがどこから持ってきたのか分からないが、カップから口を離しながら称賛の言葉を贈る。恐らく匂いからしてあのコーヒーという飲み物だろう。


「ああ、俺もこんなに長時間、勉強したこと無かったからキツかったけど…でも面白いな。」


「そう言ってもらえると教えた身としても嬉しいです。ならあの大声のことは水に流しましょう。」


 ペネロペは台から小さく跳んで降りるとレイスの机に積まれたメモを手に取った。

 そこに書かれていたのは魔法の五大系統と魔法を使うに必要な魔力について、そして魔法の種類などなど…


「本当にすごいですね。勘が良いのか…大事なところもしっかりメモしてる。これなら帰ってしっかり見直しもできますね。」


 ペネロペが見た目どおりの無邪気な笑顔を見せた。


「そうだな。帰ってからまた頭に入れないと…。書庫に行くよりもしかしたら良かったかもしれない。それにエミリア、ありがとう。」


「何よ!急に。びっくりするじゃない!」


 不意を突かれたエミリアはカップを落としそうになり、顔を赤らめている。


「エミリアが一緒じゃなかったらこうやって詳しく先生から教えてもらえなかっただろ?やっぱり自力でやるより基礎は人から教えてもらうほうがいいからな。だから、助かったよ。」


「そう?それならよかったわ。」


 二人のやり取りをペネロペは微笑みながら見守っていたが、それに気付いたエミリアはカップを片付けると言って教室を足早に出ていくのであった。


「それで、先生…一つ聞きたいことが。」


「なんでしょうか?」


 レイスは姿勢を正し、ペネロペの目をまっすぐ見て言葉を続ける。


「魔王について聞きたいんですけど。勇者と戦って封印されてるのは知ってるんですが、それ以上のことってわかりますか?」


「魔王ね。どうしてレイス君は知りたいの?今はもう伝説みたいなものよ?」


「それでも知りたいんです。その為にここへ来て…先生、何か知りませんか?」


 「少し待ってて」と言ってペネロペは教室を出ていき、一人になったレイスは机に突っ伏したのだった。

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