3.そして学術院を歩いた
門を抜けると綺麗な道幅の広い石畳の道が続き、剪定された低木が道の両サイドに連なる。その脇には大きな彫刻と色とりどりの花が咲いている庭園が広がっていた。
「すごいな…」
レイスは見たことのない風景に思わず感嘆の声をあげる。
学術院に入ってから明らかに雰囲気が変わった。街の方は色々なものが混ざった雑多で騒がしいく、活気に溢れているが、ここは統一され、洗練され、落ち着いた雰囲気がある。ただ、それ故に、街のような親しみはなく、どこか排他的な印象を受けるのは考えすぎだろうか…とレイスはあたりを見渡す。
「こっちよ!」
エミリアは対象的に道のど真ん中を堂々と歩いていく。それについていくと大きな噴水のあるちょっとした広場があり、そこから石畳の道が分岐している。
それぞれの道の先にはレンガ造りの大きな物や、木造のこじんまりした物など大小様々な建物が点在している。
「あっちが校舎であっちが研究棟で…」
エミリアがそれぞれの建物を指差しながらそれぞれの用途を教えてくれる。そして…
「あれが書庫よ!」
エミリアの指さす方向に目をやるとそこには入ってから一番目立っていた大きな石レンガ作りの建屋があった。
「でかいな…」
レイスが再び圧巻に取られると、エミリアは自慢げに紹介をはじめる。
「そりゃそうよ。この国中のありとあらゆる魔法に関する資料がそろってるのよ。」
そう言うとエミリアは書庫に向けて歩き出し、レイスもそれに続く。
「それにしてもさ…」
レイスは先ほど感じた排他的な印象の原因に行き着いたらしい。
「なによ?」
「なんか…ものすごく見られてるんだけど?」
ここへ来るまではエミリアが有名人ということもあって見られていてもさほど気にはしなくなっていたが、明らかにここへ来てからはこの学術院の人間はエミリアよりもレイスの方に注目しているように思う。
「まぁ、こんなところに魔道士以外が来ること自体、珍しいからね。」
「そうなのか?てっきりみんな魔法を学んだりするものかと思って。」
「たしかにね。魔法の勉強はある程度はするかもだけど、ここは本当に魔道士の専門機関だからね。普通はもっと身近な図書館とか魔道士の家庭教師とかを雇って勉強したりって感じかな。」
エミリアから魔法の勉強の仕方を教えてもらいながら歩いていると突然、一人の少女がエミリアの前に立ち塞がった。
「エミリアさんどうしたんですか!?学術院にいるなんて珍しい!」
レイスよりも一回り小柄で背中の中頃まで伸びた銀色の髪、そして緑色の大きな瞳を囲うように黒縁のこれまた大きなメガネを掛け、ヨレヨレの白衣を着た少女がエミリアを呼び止めたのであった。
「ペネロペ先生!お久しぶりです!相変わらず可愛いですね。」
「先生!?この子が!?」
レイスは思わず大きな声を出し、それに驚いたのかペネロペはエミリアの背中に隠れた。
「な、なんなんですか!?急に大きな声を出して!びっくりしたじゃないですか!?」
ペネロペはエミリアの背中から顔だけ出してレイスに抗議する。それを見かねたエミリアはペネロペをなだめながらレイスに紹介する。
「この人はペネロペ先生。私に魔法を教えてくれた人よ。見た目は幼いけどエルフ族だから私たちよりもかなり年上よ?」
「エミリアさん?かなりって言う必要あったかしら?」
ペネロペは不満気にエミリアの方を見る。
「えっと…エルフ族?」
レイスは聞き慣れない単語に困惑の表情を浮かべる。
「エミリアさん?この人は山の中で一人で育ったんですか?」
ペネロペは訝しがりながら、レイスの方をじっと見る。エミリアは既に耐性がついたのか淡々とレイスに説明を始めた。
「すいません。ペネロペ先生。この人ちょおおおおっと変わってて。……レイス?一応何も知らないって前提で話すけど、私たちの人種はメトス族、その他にいるのがエルフ族とドワーフ族、オーガ族よ。わかった?」
「えっと…まぁ?おう。」
これがあの力を失った代償か?レイスは知識が入ってこないだけでこれだけ無力感に苛まれると思わなかっただけに危機感を募らせる。
「まぁ、追々そのへんのことは教えてあげるわ。」
「そうしてくれると助かる…。」
ペネロペは妙にこの二人の息があっていることに笑みがこぼれそうになるのを堪えて改めて咳払いをしてエミリアに問いかける。
「んっうん…エミリアさん?どうしてここに?」
すると聞かれたエミリアではなく、レイスが改めて自己紹介を兼ねて答えた。
「すいません。あの…初めまして、レイス・アーレインと言います。えっと、ハンター?です。魔法について調べようと思いまして。」
「あっ…」というエミリアの声が漏れると同時にペネロペは目を輝かせてレイスに詰め寄った。
「へぇー。魔法?ハンターなのに魔法について調べたいの?いいわね!」
思わぬ展開にレイスがエミリアの方を見ると手で顔を覆いながら下を向いている。恐らく、言ってはいけないことを言ってしまったらしい。
「非常にいい心がけですね!魔法について調べたいと!いいでしょう!あなたに魔法の何たるかをこの、ペネロペ・ウォール・ペンタグラムがお教えしましょう!ではこちらに!」
ペネロペはレイスの腕を掴むと書庫とは逆方向に歩いていく。慌ててエミリアの方を向く。
「エミリア?どうすればいい?ねえ!?」
「もう、手遅れよ。」
エミリアは諦めたように同じくレイスの腕を掴んでペネロペの横に並んで歩き始めるのであった。




