2.そして門は開かれた
学園都市クレエア…
学術院までの道のり、雑談がてらエミリアからこの街について昨日、頭に入ってきた情報とのすり合わせの為に色々と教えてもらった。
この街はアヴァリス領土の中でも特殊な場所にあり、南西にへザード連邦、南東に華央皇国という2つの隣国に面しており、その土地柄か異国情緒あふれ、訪れる者には寛容な活気あふれる街となった。
「そしてここからがわたしの話したかったところよ!」
昨日のようにエミリア先生の解説が熱を帯びる。
「ヨッ。マッテマシタ。」
レイスも感情のない棒読みの合いの手を入れる。
「あなたのために話してるのよ?」
エミリアは気を取り直して話を続ける。
「ここに集まってくるのは人と物だけじゃないの。情報…つまり知識が集まるのよ。」
「情報…俺にとっては願ったり叶ったりな街ってわけか。」
レイスはこれもセラの仕組んだことかと少し勘ぐるが、エミリアが話の腰を折られて不機嫌そうなので続きを促した。
「その中でも魔法の分野は飛躍的に向上したわ。まぁ、それぞれの国が洗いざらい魔法の情報を交換してるってわけじゃないけど。」
「手の内を全部を晒すわけはないよな。」
「そういうこと。百年以上も前だけど、戦争だってしてたこともあったらしいし。」
エミリアがすれ違った子供に手を振りながら答える。エミリアがこの街で有名人というのを改めて実感する。
「戦争してたのか?意外だな。」
「そう?」と不思議そうにエミリアは答えた。
「いや、魔王と戦った時から人類は一致団結してたもんだと思って。」
「魔王がいたのはもう五百年も昔の話よ…そうね、今の情勢で言うと世界中が平和ってわけじゃないわよ。」
エミリアは少し遠い目をする。ここでこの話を終えるべきかとレイスは考えたが、これまでと違い自分で知識は得なければならない。エミリアの心境を伺いつつ様子を見る。
「別に話したくないわけじゃないわよ。」
エミリアはレイスのことを察して話を続ける。
エミリアによればこの世界には五大国とそれぞれに属する小さな国で成り立っているらしく、アヴァリス、へザード、華央帝国は比較的平和な国らしいが、残りの二国は大規模な戦争こそないものの冷戦状態で小競り合い自体は絶えないらしい。
「それでも百年前に起きた戦争の後に締結された五国同盟で戦争自体はできないとは思うからそこまで心配はしなくてもいいとは思うけどね。」
レイスは初めて聞く単語、五国同盟について聞こうかと思ったが、おもむろに足を止めたエミリアに気が付き、口を閉じた。
「ついたわよ!ここがクレエア魔導院!」
エミリアの目の前にあったのは大きな金属製の門であり、その門の隣から果てなく続く壁に【クレエア魔導院】と書かれた看板がつけられている。そしてその門の両脇には門兵と思わしき兵士が少年と少女を見つめていた。すると一人の門番がおもむろに少女へと近づく。
「エミリアじゃないか!久しいな!どうした?学生生活が恋しくなったか?」
強面の兵士の顔が緩み、エミリアと親しげに話し始めたのだった。
「私が過去を振り返るような女に見える?今日は書庫に用があるのよ。それにしてもエヴァンはちょっと太ったんじゃない?」
エミリアはニヤリと笑いながら肘でエヴァンと呼ぼれた門兵のお腹をついた。
「そ、そんなことはないぞ!…それで書庫か、魔法のことは本当に研究熱心だなあ。」
「ああ、違うのよ。こっちの男の子がね、調べたいことがあるから連れてきたの。」
エミリアが指差すとエヴァンともう一人の兵士は促されるように険しい目線をレイスに向けた。そして一通り観察するとエヴァンは難しい顔をしてからレイスに話しかけた。
「少年よ。デートに図書館とは真面目過ぎないか?もう少し楽しい場所に連れて行くといい。例えば大通りのアマリリスというカフェなんてオススメ…」
「何言ってるのよ!!」
エミリアは顔を赤く染めながらエヴァンの背中を叩いた。しかし鎧にまともに当たったせいか手のひらも同じくらい赤くなり、痛がる素振りを見せる。それを気にすることもなく、エヴァンはエミリアの方を向いた。
「ん?違うのか?」
「違うわよ!」
エミリアとエヴァンのやり取りをレイスともう一人の門兵は微笑みながら見守っている。
「僕の名前はケインだ。あまり見ない顔だね。それに剣か…エミリアの知り合いってことはハンターかな?」
二人のいざこざを横目にもう一人の門兵ことケインが話しかける。鎧のせいで大柄には見えるが顔を見ると目尻の下がったつぶらな瞳で優しそうな印象を受ける。
「あ、はい。昨日この街に来たばっかりで、それでここなら魔法のことを知れるって宿の人から教えてもらったんです。」
「なるほどね。確かにこの国でここ以上に魔法のことを調べるのにうってつけの場所はないからね。エミリアの知り合いってことは泊まってるのはスターシャさんのところかな?」
「そうです。色々気にかけてくれて助かってます。」
「だろうね。あの人はここで働いてる時から面倒見が良かったから……ほら、どうやらあっちも落ち着いたみたいだよ。」
ケインに促されてエミリアの方を向くと顔を真赤にするエミリアをからかうように笑うエヴァンがなだめているところであった。
「話はついたか?そろそろ書庫に行きたいんだけど?」
レイスがエミリアに話しかけると不満気なエミリアが小さく何かを言いながら門を通ったのでレイスも苦笑いしながら後をついて行く。それをエヴァンとケインは後ろから見守るのであった。




