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そして彼は剣聖と呼ばれた  作者: 白黒まざる
学園都市クレエア
33/43

1.そして街は朝を迎えた

 ようやくコーヒーの苦味に慣れた頃、レイスはふと思い出したことがあった。


(そういえば、稽古をしないで眠ったのは久しぶりだな…)


 彼にとって剣の稽古は一日を締めくくる大事なルーティンであった、前の世界では旅先であっても、大事な行事の前であっても欠かさず行っていた。昨日の出来事でこの新しい身体の感覚も掴めたが、まだ馴染んでいないものがあった。


「どうにもこれがな…」


 半分まで減ったカップを置きながらテーブルに立てかけている剣を一瞥した。

 この世界に降り立ったと同時に手にしていたものであるが、長年愛用してきた剣と違うということもあり、いまだ違和感がある。


 この剣を売って新しい剣を買うか、ただなぁ…せっかく貰った剣、しかも神からもらった剣を売るっていうのもなぁ…

 小さくため息をついて残ったトーストを口に運んでいるとこの酒場兼宿屋の女主人、スターシャが声をかけてきた。


「なんだい朝からため息なんて、あんたもハンターなんだろ?早くしないとギルドが開いちまうよ?」


 数こそ少ないが、ハンターズギルドの掲示板にソロハンター向けの依頼を営業開始とともに貼り出されるので、ソロハンターはその中でも割の良い仕事を取るために朝から並ぶのが通例らしいということを昨日、ローグから聞いていた。


「今日はちょっと図書館で調べ物しようと思ってて、それに昨日、ここに来たばっかりなんで街を散歩しようと思ってまして…」


 何故か頭が上がらないような気がするスターシャに苦笑いしながら答えるとスターシャはそれならとお弁当を作ると提案してくれた。もちろん料金はいらないという。それに感謝を述べると、スターシャは厨房に戻った。さすがエミリアの紹介してくれた宿屋だ良い所を教えてくれた。


「とりあえず…」


 今日、調べるものをまとめる為にレイスは腰の鞄からペンと紙を取り出した。昔からの性分で計画立てないと落ち着かないのであった。

 そしてコーヒーを飲み干しつつ紙に箇条書きにまとめた。


・魔法について

・魔王についての伝承

・ハンターの訓練場(腕試しできるところ)

・神について


「こんなところかな。まずは魔法について調べないとなぁ。」


 レイスにとって最重要項目、それが魔法を知ることであった。もちろん最終目標の魔王についても気にはなるが、魔法について調べなければ今後の戦闘において不利に働くことは目に見えている。それにしても改めて考えると昨日は運が良かったとレイスはまた小さくため息をついた。


「おや?魔法について調べるのかい?」


 小包を抱えたスターシャが紙を覗き込む。


「はい!」と不意をつかれたレイスは少し大きな声で驚いた。


「そんな大きい声出さなくてもいいんだよ。でもそれくらい元気な方が私は好きだけどね。それで魔法について知りたいなら中央図書館より学術院の図書室のほうがいいわよ。」


「あっ、そうなんですか!?ありがとうございます!」


 スターシャからの思わぬ情報にレイスはまた大きな声で返答した。


「この店を開く前は学術院の厨房で働いてたんだよ。あそこは魔道士の研究論文とかもあるからオススメだよ。」


 そう言いながらスターシャは小包をレイスに手渡した。まだ、ほんのりと温かい。


「疲れたらしっかり休むんだよ。」


 身支度を整えたレイスがドアを開けると子どもの声や商店の客引きの声、これから仕事へ向かうであろう人たちの喧騒など昨日とはまた違った活気が街に溢れている。


「さてと…魔導院はと…」


 スターシャに教えてもらった情報を頼りに通りを歩くと自分が違う世界に来たということを実感する。昨日はまだ浮ついていたのだろう、昨日気にならなかったものが今日は二日目ということもあって少し余裕があるのか、見た目や服装、建物や売られているもの、ここに住む人たちの日常がレイスにとってはすべて非日常の出来事のように映る。

 その非日常を眺めながら歩いていると聞き覚えのある声がレイスの歩みを止めた。


「レイス!やっと見つけた!」


 振り返るとそこにはこちらに駆け寄ってくるエミリアの姿があった。


「エミリア?今日はエリスノー達と話すんじゃなかったか?」


「そんなのもう終わったわよ。みんなには住み込みでウチで働いてもらうことになったわ。」


 エミリアは膝に手をつきながらレイスの問いに肩を上下させ答えた。


「そうなのか…それは…良かったでいいんだよな?それでどうしてここへ?」


「どうしたもこうしたもないわよ。アンタが心配で宿に行ったらもう出たって聞いたから慌てて追いかけてきたのよ。」


 エミリアは面倒見がいいのか、それともこの得体のしれない男に興味を持ったのか…休みを返上してレイスの案内役をするために朝の用事を終わらせてやってきたのだという。


「別に俺一人でよかったのに。ありがとう。」


「別にいいわよ。私がついて行きたくて来たんだから。それに学術院に行くならなおさら私がいた方が都合がいいわよ。」


 エミリアが得意気に笑顔を見せてくる。


「どういうことだ?」


「だってわたし、あそこの卒業生だもん。色々、詳しいわよ?」


 そう言うとエミリアは大きく深呼吸した後に先導するようにレイスの前を歩いた。

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