3.暗闇と少年と
「いやぁ、全く…本当に良い日だ。」
男はどこまでも続く青い空に向かって呟く。
彼の最期の言葉…
それを聞く者は誰一人といない。
それでも彼は寂しさなど微塵も感じていなかった。生涯をかけて編み出した技が通じなかったのだ。むしろ清々しい。
「まぁ…なんだ。ただもう少し、そうだな……」
目の前が徐々に暗くなっていく。
「もう少しだけ、剣を振りたかったな…」
そして目の前は完全に闇に覆われた。
彼に最期の瞬間が訪れる。
……はずだった。
「君はそうか。まだ剣が振りたいのか?ちょうどいい。少し私に力を貸してくれないか?」
少年のような声が暗闇に響く。
彼は思わず目を見開く。しかしそこはまだ暗闇。しかし遠いていたはずの意識は段々と覚醒し始める。
「よかった。まだ息があるようだね。でも君はもう少しでこの世から居なくなる。わかるね?」
子供が声をかけているには落ち着いている。
そしてこんなところに子供がいるはずもない。
「お前は誰だ?いや、もう俺は助からない。俺に構わず親元に帰れ。」
男はその声の主に話しかけたが向こうは構わず続ける。
「そうだね。私もそろそろ帰らないといけない。ただ…そうだな。君の力が必要なんだ。私に力を貸してくれると言うのなら君の願いを叶えることができる。どうだい?」
(俺の…願い?)
男は心の中でつぶやく。
「そう。君の願いさ!さっき言ってただろ?剣を振りたいと…いいとも!存分に振るうがいいさ!」
男は驚いた。俺は口に出してなんかいないはずだと。
それに俺は死ぬ直前だったはずだ。
どうしてこうも意識がはっきりしている。
そして俺に話しかけているこいつは誰なんだ?
様々な思いが錯綜する中、彼は思わず口に出した言葉…
「剣を振れるのか?」
「あぁ、【神】に二言はないさ」
その一言で彼の目の前は一気に光を取り戻し、彼は立っていた。そして
足元には水面があり、雲一つない空が広がった。
男の目の前には見慣れぬ白い羽衣を身に纏った少年とも少女とも見れる子供が金色の瞳をこちらに向け立っていた。
「かみ?」
「そう、私は神。こことは違う世界の神。そうだな…簡単に言うと世界の管理者とでも言った方が早いかな?」
子供は一切口を開いていないのにも関わらず言葉が聞こえてくる。
男は彼の言っている言葉の意味を計りかねていた。
ここは死後の世界なのかもしくは自分が作り出した妄想なのか…
意識ははっきりしているのに考えがまとまらない。
男が何も答えずに立ち尽くしているとまた声が頭に鳴った。
「ここは死後の世界でも君の妄想でもないよ。」
まただ…やはりこの子供には私の心が読まれている。
そう確信するのも束の間。神と名乗る子どもは静かに話しかけてくる。
「ここは君の世界と私の世界の狭間。君には2つの選択肢がある。1つはこのまま死後の世界に行く。そうすれば君は魂が浄化されて一から別の人間として生まれかわる。もう一つはさっきも言ったように私の世界に来て君の人生を続ける。まぁ、そのままの姿ってわけじゃないけど、魂は今のままだ。簡単な話だよ。」
話し終えると子供の後ろに白く光る2つの道が現れた。
「人生の続きか…」
男はこれまでの人生を振り返った。決して後悔のない人生を送ってきた。
過去に未練などないはずだった。
ただ…まだまだ強くなりたいという未来への未練…
そう、あの男が言ったあの言葉。
【なるほど…その答えを聞いて確信したよ。お前は俺に勝てない。絶対にだ。】
これだけが心残りだった。
「わかった。お前に力を貸そう。」
男は意を決し静かにそう力強く答えると。子供の後ろに続く道が重なり一つとなった。
「ありがとう、助かるよ。そこでだ!君に何か一つ贈り物を渡そう。何がいいかな?私の世界には魔法という君の世界にはないものがある。それを使えるように…」
「名前をくれないか?」
男は遮るように答えた。
「名前かい?君には名前がもうあるだろう?」
これには神も驚いたような声をあげる。
「ああ、この名前は十分俺に尽くしてくれた。ここで休ませてやりたい」
「変わってるね。」と神はこの答えに少し呆れた表情を見せたが、すぐに元に戻し、その願いを聞き入れた。
「わかったよ。君の名前は【レイス=アーレイン】、私の世界ではもう忘れられてしまった言語で【神の亡霊】という意味だ。それと見た目も違和感の無いように変えておこう。少しイイ男にしてあげるよ。」
「余計なお世話だ…」
彼はつぶやき、微笑んだあとに続けた。
「それで、お前はこの死にぞこないに何をしてほしいんだ?」
「魔王を倒してほしいんだよ。」
その瞬間、彼は光に包まれた。




