25.そして彼は祈った
街の中でも賑やかな中心街から離れた場所にその教会はあった。ハンターズギルドやロバスの商店のあった通りと比べるとその静けさはレイスの心を落ち着けるのに十分である。
大人の背丈ほどの高さの鉄製の柵で囲われたエリアに入ると敷地には整備の行き届いている芝が広がり、所々に木々が植えられ自然を感じられる。人工物といえば、入口の門から続く石畳の道とその先にある飾りっ気のない白い石造りの質素な建物くらいであった。
「遅くなっちゃったわね。」
エミリアが門をくぐると大きく深呼吸しながら息を整えるようにゆっくりとした歩調で石畳の道を歩く。レイスも真似するように深呼吸をした後にエミリアに続く。
「なんというか、ここって不思議な場所だな。心が落ち着くというか。」
レイスは振り向き、街の中心地に目を向けると明かりがその一帯を照らしているのがわかる。
「そうね。教会だから儀式とか祭事でもない限りここで騒ぐ奴なんていないからね。ほら急ぐわよ。」
エミリアはまた少しだけ早歩きになり教会に向かう。
ーー「二人ともごめん!」
エミリアが教会の木製の両開き扉を開けると開口一番、謝罪を述べた。それにつられ、レイスも後ろから頭を軽く下げる。
それに気づいた、入口付近で神職と思われる男と会話していた二人の軽装の兵士のうち、長身の男が二人の身なりを見て笑いながら返答した。
「気にすんなよ。ハンターズギルドっていつも混んでるからなあ。それにしても、二人とも地下道でも通ってきたのかよ?」
二人も暗くてわからなかったが、教会内の明かりに照らされた二人の服装は汚れきっており、互いに顔を見合わせると顔も泥や土がついていたのだった。
途端に恥ずかしくなったエミリアは事の経緯を仲間の二人に説明している間、レイスは神職と話すことにした。
「あの、ここって教会って聞いたんですけど…あっ、俺、今日この街に来たばっかりで何もわからなくて。」
「そうでしたか。ここはクレエア第四支教院で、私はこの教会で神官を務めるエルモンドと言います。ようこそクレエアへ。私共とこの街はあなたを歓迎しますよ。」
エルモンドと名乗る神官はレイスの前に立つと軽く頭を下げる。白く質素なローブのような服越しではあるが、中肉中背といったところか。顔を見るに歳は壮年のようで青く透き通った瞳にしわの寄った下がった目尻は優しい印象を与える。そして整えられた口髭は白い簡素な帽子から見える金髪と同じ色をしていた。
「ああ、えっと、こちらこそ。レイスと言います。よろしくお願いします。」
レイスも慌てて頭を下げ、ゆっくりと頭を上げると同時にエルモンドの後方、教会の奥にある祭壇のさらに後ろに飾られた絵にレイスは目を取られた。
「あれは…神?」
「ええ、マルス教における第一神、マルス様でございます。レイス様の知るお姿と違いますかな?」
エルモンドに問いかけられたレイスは思わず困惑する。その絵に描かれていたのはレイスが出会ったあの【神】と名乗る少年とは似ても似つかない…むしろ雰囲気で言えばエルモンドのほうが目の前に描かれている神に似ているのだから…するとまたレイスに【マルス教】に関する情報が頭に追加された。
「いえ、ただ、そう。マルス…さまを祀っているということはこちらはマルス聖教会といことですよね?」
マルス教には様々な分派があり、その中でも一番信者が多いのが第一神であるマルスを信仰するマルス聖教会である。そしてその姿も往々にして老人の姿で描かれることが一般的であった。
「ええ、そのとおりでございますよ。」
エルモンドがまたにこやかに笑い返事をする。マルス聖教会が第一勢力となっているのはその懐の深さである。聖教の信徒では無くとも教会への出入り、または祭事を執り行うことを良しとする。さらに信仰の複数可も許さている。そして守るべき教えというものも他の宗派に比べると緩い…こういった理由で最大派閥を形成しているとレイスは今、知った。
「そろそろいいかしら?」
エミリアの説明も終わり、何かを考えているレイスに急かすように声をかけた。
「何がそろそろなんだ?」
レイスも声に気付き、頭の整理を一度辞めることにした。
「これからあの二人の…最後の儀式よ。」
エミリアと二人の兵士とレイスはエルモンドについていき、教会の裏手にある扉を開けた。そこは教会の影になり、夜ということもあってここに来るまでは見なかったが、教会の裏手にはいくつものお墓が立てたらていたのだった。
そしてそのお中でも新しい土が盛られた2つのお墓の前で5人は止まる。
「それでは、葬儀を始めます。」
その後、エルモンドは懐から小さい杖のようなものを取り出し、お墓にかざしながら祈りの言葉を土の下にいる二人に語るように唱えている。
その間、エミリアと兵士二人は下を向いて目をつむり右手の平を胸の前に置いている。これがマルス教の葬儀であった。そんな中レイスはマルス教のやり方を知識として持っていたものの、両の手の平を合わせて目を閉じている。
レイスは付け焼き刃のやり方ではなく。自分が慣れ親しんだやり方で二人を弔うことにした。その時、風が一つ、彼らを撫でるように吹き、空へと舞い上がっていくのだった。




