21.そして彼らは監視した
「こちらからは何も確認できない、まだ交戦中と思われる。」
路地裏の入口、数人の影があたりを伺いながら何の変哲もない倉庫街を確認しながら互いに連絡を取り合っている。
何もない空間を見張っているのだから見ようによって怪しいが、ここを通る者はこの時間帯は居ないことを予め、確認済みである。
そんな、なにもない空間に目を光らせているのは新興のハンターズグループ【カノープス】によって苦渋を舐めさせられている面々であった。
彼らもこの街でハンターズグループとして幅を利かせていたもののエミリアの立ち上げたカノープスが話題をさらい、それに便乗する形で彼らが抱えていた大口の依頼もそちらに流れる事案が続いたのであった。……要は逆恨みである。
彼らもそんなことは分かっているが、メンツを潰されて黙っていることはできなかった。そして複数のそう言ったハンターズグループが結託し、今回の計画が実行されたのであった。
「それにしても、こんなことして大丈夫なんすかね?」
監視者の中でも一際、若い男の声が別の監視者に問いかける。
「まぁ、バレたらグループとしての営業許可は取り消されるだろうな。」
別の中年風の男の声がそれに答える。
「やっぱそうっすよね。で…これって何グループぐらい集まったんすか?」
「俺も詳しくは知らないが、6くらいはあるんじゃないか?ほら、お喋りは終わりだ。ちゃんと監視しろよ。」
「はぁ、俺、こんな事するためにハンターになったわけじゃないんすよ?」
「入ったグループが悪かったな。これも社会勉強だと思えばいいさ。」
そんな計画の監視を任されたのは各グループの中堅から下っ端クラスのハンターたち20名ほどで場合によっては彼らがエミリア及び、実行部隊として雇った者たちを始末するのが彼らの仕事である。非公式のハンターズグループに実行させ、仕事の完了を確認したあとに始末し、彼らに支払った依頼料を回収しなければならない。依頼料には魔法が仕掛けられ、保管場所は確認済みである。
「あいつらでエミリアを殺れるんですか?」
先程の若い男がまた質問する。どうやらこういった仕事には向かない性格のようだ。中年風の男も諦めたような声で仕方なく答える。
「なら、お前は倒せるのか?あの天才魔道士を。」
「これだけの数がいれば?」
「エミリアが万全の状態ならまず無理だな。それに万が一逃げられてみろ?証拠の一つでも握られたら目も当てられねぇ。だからこうやって回りくどいやり方をやってるんだ。」
「そんなもんすかね。」
「お前は知らないんだよ…エミリアという女を。」
若い男は両手を頭の後ろで組み、納得いかないような表情でまた路地裏を見つめる。そんな若い男に呆れながらも、どこか羨ましさを中年風の男は感じていた。
「あのエミリアという女はな、それだけの実力があるってことなんだよ。でなけりゃこんなバカげた計画を上が考えて実行なんてしねぇよ。」
中年風の男は若い男の頭を掴み、犬をあやすように髪を雑に撫でる。本当ならこんな仕事、自分だってやりたくはない。ただ、年齢を重ねそれが正しくないと分かっていても組織にいる以上、上の命令に従うことが当たり前と感じている自分に憤りを感じていた。
「この仕事が終わったら、ハンター引退するか。」
中年風の男が若い男に聞こえないようにつぶやき、路地裏に目を移した瞬間であった。
目の前の風景が歪みまるで、そこに見えないベールが上がっているように自分たちが今まで見ていた光景が徐々に変わっていった。
その場にいた監視者達は緊張感を高め、臨戦態勢を取る。それまでなんの変哲もなかった路地裏は激戦を物語るように周りの倉庫は傷つき、道は陥没、壁には亀裂が入っている。そして監視者達はその光景に息を呑み、その道の中心に2つの人間の影が重なるように倒れているのを確認した。
「あれってエミリアですかね?」
「ここからじゃわからん。とりあえず確認しにいくぞ。絶対に気ぃ抜くんじゃねぇぞ。」
それまで散らばっていた監視者たちがその影に向かって素早く集まる。20名ほど倒れた人間の元に集まり、数名が路地裏の2つの入口に残り、見張り役をしている。
中年風の男が覗き込むと、大柄な男が覆いかぶさるように下の人間の姿を隠している。情報通りだとすると、この男が実行部隊のグループリーダー、エリスノーであろう。
「片腕が無い、相打ちか?それなら手間も省ける…よし!この男をどけるぞ!」
その言葉により数人で残った男の腕を持ち退かす作業に移った。そう、その下にいるもう一人の人間を確認しなければならない。それによってこの計画の成功かどうかが分かるのだから…。
なんとか男を退かせるとうつ伏せになった金色の髪の小柄な人間がそこにいた。中年風の男は計画の成功を確信し、その顔を確認するためにそのうつ伏せの人間の顔を掴もうとした瞬間、周りが光るのを男は目の端で捉えた。
「な、なんだ!?」
中年風の男の意識がそちらに取られた瞬間、うつ伏せになっていた人間が突然飛び上がり、監視者たちから距離を取った。そしてその顔を確認した男は叫んだ。
「エミリアじゃない…お前は誰だ!!」
魔法により髪型を変えていたレイスの口角が上がる。
「エミリア!今だ!!」
臨戦態勢を取っていた監視者達はその言葉に反応し、辺りを見渡す。気がつけば片腕の大柄な人間も起き上がり自分たちから距離を取っていた。
「騙された…」
監視者達がそれに気付いた頃にはもう手遅れであった。




