18.そして彼女は陥れた
「今だ!」
大きな爪で襲いかかる襲撃者…キトリノはエミリアがこちらへの注意を逸らした一瞬を見逃すまいと他の二人に合図を送り、ほんの数メートル先にいるターゲットに向かって攻撃を仕掛けるために一歩目を踏みしめた。
「【アクアバースト】」
二歩目を踏み出そうとした瞬間、エミリアの魔法が発動し、足元から水が上がったが、大した威力ではなかった。キトリノは飛びかかるために足に力を入れた、……足元が緩む感触がある。そしてターゲットは笑みを浮かべていたのであった。
「あまり待つのは好きじゃないの。」
エミリアがそう言い終わると彼女を中心に数メートルほど円形に地面が崩落し始めたのであった。しかし彼女の足元だけは未だに崩れることはない。
「モグ!俺を踏め!」
キトリノの後ろに続いていたモグはその意図を理解し、バランスを崩している彼の背中を踏み台にしてエミリアに襲いかかった。彼女の周りはすでに崩落し、逃げ場などないように思えた。
モグは二本のナイフを両手に持ち、エミリアに襲いかかる。そして彼女の後方にいたもう一人の襲撃者であるマヴロに支援を求めようとしたが、向こうは既に地面にのまれかけており、それどころではなかった。
「クソお!」
モグは逃げ場を失ったターゲットに向け、二本の刃を突き立てようとしたが、逃げ場を失っていたのはモグの方であった。
「あなた、空は飛べる?【アクアバレット】」
エミリアから放たれた無数の水の弾丸は宙に浮くモグに全て命中し、その反動で後方へと飛び、崩れ落ちた地面に三人とも落ちいくのであった。
「あとはこれで…甘き誘い、眠りを呼び起こせ【スリープニル】」
エミリアが呪文を唱えると、陥没した地面に落ちた三人の周りに黄色の光の円が現れ、まもなく、全員は意識を失ったのであった。
その一連の流れに対してエリスノーとブレはただ見守ることしかできなかった。何故なら、目の前にいる男は一切、こちらから目線を外さず、隙を伺っていたからであった。
「ブレ…あいつらは無事か?」
エリスノーは自分のすぐ後ろに控えているブレに小声で尋ねる。
「ええ、でも…意識がないわ。おそらく眠らされてるのかと。戦線に復帰するのは難しいと思うわ。」
「そうか。」
ブレの答えにエリスノーは思わずため息が出そうになる。数的な有利は覆されている上、自分は手負い、ブレは戦いに参加できない。そして……
「なぁ、おま…いや、剣士よ。降参だ。」
エリスノーはそう言って。両手を挙げ、膝を地面につけた。
「エリスノー!?何を言ってるの!?」
ブレは慌ててエリスノー前に立ち、問いただす。
「よく考えてみろ。この状況、俺たちに勝ち目はねぇよ。ここで降参したほうが死ぬよりマシだ。」
「なら…依頼はどうなるのよ!私たちが今度は狙われるわ!」
二人が言い合いにレイスはどうしたもんかとエミリアの方を見ると、彼女は水で作った橋を渡り、穴の上を越え、こちらにやってくる最中であった。
「あの二人何を言い争ってるの?それともこちらの警戒心を解くための罠?」
エミリアも二人の様子をうかがいながらレイスに近づく。
「どうだろうな。俺としては戦いたい気持ちはあるんだけど…それにしても派手にやったな。」
レイスも剣を回すなど手遊びをしながらエミリアに答える。
「エリスノー…本当にいいのね?」
「悪いな。また苦労かけちまうかもしれない。」
数分二人は話し合い。ようやく、ブレも半ば諦めた感情に近い納得により、エリスノーの前から立ち退く判断を下した。
そしてブレに支えられ、エリスノーは立ち上がるとレイス達に向かって話を提案をする。
「待たせてすまない。さっきも言ったが、俺達は降参する。このまま拘束するなり、警備隊に突き出すなり好きにしてくれ。」
その提案に今度はレイスとエミリアが話し合うこととなった。
「ねぇ、どうする?本当に降参したってことなの?油断させてるわけじゃないわよね?」
「まぁ、完全に信頼していいかは分からないな。ただ、アイツからはもう敵意とか、そういうのは感じないのは確かだ。つっても勘みたいなもんだけどな。」
「それって信用していいわけ?」
レイスとエミリアも数分話し合い。一つの結論を出し、そしてエミリアが片腕の男に問いかけた。
「ねぇ!えっと…」
「エリスノーだ。」
「ありがとう。エリスノー、私たちからの質問に答えてくれたら見逃してあげてもいいわ。でも、身分が分かるものとかはちゃんと控えるけど。それでどうかしら?」
「ああ、問題ない。恩に着る。」
「それと…悪いけど、あの三人は人質に取らせてもらうわ。安全って信頼できるまでね。」
エミリアは穴の方を指差し、エリスノーに提案する。
「ああ、かまない。ただ…ちゃんと無事なんだろうな?」
「ええ、寝てるだけよ。朝になったらちゃんと起きるわ。」
ブレはその答えに安堵した表情を見せたが、すぐに顔を引き締めた。
そして両者は距離を縮め、路地裏には再び、静寂が訪れたのであった。




