12.そして彼らは打ち解けた
「ほら、立ちなさいよ。」
エミリアは痛がりながらなんとか起き上がろうとするレイスに左手を差し伸べる。
「すまないな。まだ慣れてなくて……」
「慣れてない?」
思わずハッとした表情で動揺しているレイスに今の言葉の意味を問おうかと思ったが、エミリアは「仕方ないか」と微笑み、差し出された左手を引き起こした。
「あなたが話したくないなら仕方ないってことよ。それに私は負けたんだからもうとやかく言うつもりもないわ。」
「そうしてもらえると助かるよ。ただ、これだけは言わせてくれ。」
レイスは体についた砂を払い落としながらエミリアに近づく。
「正直、舐めていた!すまん!」
エミリアは両手を合わせて勢いよく頭を下げるレイスに驚いたが、構わず、レイスは頭を上げると興奮気味に続けた。
「魔法のことをもっと教えてくれないか!?いくつか想定していたが、対応できない部分もあった…。それに楽しかった。ありがとう。」
屈託のない笑顔で話すレイスに押されながらも悪い気はしなかった…いや、舐めていたということに関しては後で抗議しようとは思うが。ともかく演劇を見たあとの子供のような男をなだめながら二人はロバスらが待つ荷馬車へと戻った。
「ロバスさん、すいません。到着が遅れたら成功報酬から差し引いてください。」
エミリアは頭を下げたが、ロバスもロバスで高揚した顔で「いやいやいや」と素早く首を振った。
「いやぁ良いものを見せてもらったよ。こちらがお金を払いたいくらいだ。だから気にしないでくれ。」
それに賛同するように兵士たちも小さく拍手をしている。どうやら男という種族の根本は似ているらしい。
「では、ロバスさん。行きましょうか。街まであと少しです。」
エミリアは軽く微笑みで返し、ロバス一行は再び道を歩き出し、目の前にある街を目指す。
一面の畑といくつか点在する小屋が流れていく風景を眺めながらエミリアは前を歩く男…レイスについて考えをまとめていた。
ロアウルフとの戦いで見せた対応力、それに自分との勝負で見せた剣の腕。いや…自分は彼の実力を引き出せたとは思わない。あれが命をかけたものならばもう少し彼のことを知ることができたのだろうか…。
その様子に気付いたのか、レイスは後ろを振り返り、速度を落としてエミリアの隣に並んで歩き始めた。
「そんなに考え込んでどうしたんだ?」
「あなた、少しくだけた言い方になったわね?どういう心境の変化なのかしら?」
レイスは「おっ」と小さく言うと、はにかみながら前を向いた。
「一度戦った相手にはついな…。嫌だったら謝るよ。」
「別に嫌じゃないわ。それにその方が話しやすいし。でも、もうすぐ街につくわ。そうなったらお別れね。」
「ああ…そうか。ただ、人の縁なんて不思議なもんで、繋がったらそうそう切れないもんだぜ?」
レイスは笑いながらエミリアの方を一度見るとまた前を向く。
「俺さ、知り合いが全くいなくて…正直、心細かったんだよ。でもエミリア達に会えてよかった。だからこれで終わりってことにもしたくねぇんだ。」
「こっちにはいなくても、故郷に帰ればいるんじゃないの?」
エミリアは不思議そうに問いかける。どうせ、はぐらかされるだろうと思いながら。しかし返ってきたのは意外な答えであった。
「この世界のどこにもいないんだよ。詳しくは話せないけど。だからエミリア達が俺にとって最初の縁ってことになるな。」
内容からして重そうな話しではあるものの、当の本人は空を見上げているくらいで特段、気にはしていなさそうである。
「なるほどね。まぁ聞きたいことは本当は山ほどあるけどね。」
エミリアは少し歩くスピードを上げ、街の方へと進む。レイスも思わず速度を上げ、その様子をロバス達は微笑みながら見守るのであった。




