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11.そして彼は示した

 彼女は掛け声を聞くと、この戦いに意味はあったと喜んだ。


 街を見て、はしゃいだりする部分はあるものの、どこか見た目の年齢にそぐわない落ち着いた振る舞いや話し方。そのどれをとっても自分より格上のように感じていたが、いざ戦いとなると熱くなって今、自分と対峙している。


 ルールはあるが、彼は手加減するつもりはないように思える。自分だってそうだ…努力をし、経験を積み、それに見合った名声と実力も兼ね備えていると自負している。

 だからこそエミリアは自分の心のざわつきを抑えることができなかった。そんな自分が本能的にレイスを格上だと位置づけてしまっていることに。


「あら、来ないの?来ないならこっちからいくわよ?」


「ああ、それでも構わないさ。」


 レイスは左手に持った木刀の切っ先を下に垂らし右肩の外側がこちらを向くような体勢で構えている。

 するとエミリアがおもむろに右手をあげ手のひらをこちらに向けると同時に言葉を発した。


「【アクアバレット】!」


 手のひらにいくつかの円が浮かぶとそこから水の弾が四、五発レイスに向かって放たれる。しかし弾の行き着く先にレイスの姿はなかった。

 発射された瞬間、レイスは斜め前方に向かって駆け出し水の弾を避けるとすぐさま前傾姿勢でこちらに向かってくる。

 エミリアの方も避けられることは想定していた。ロアウルフの攻撃に向かっていくような男だ。これくらいで仕留められるはずがない。

 すぐにエミリアも横に駆け出し、レイスとの距離を空けようとするもののその距離はだんだんと詰められていく。基礎体力では向こうの方に分があるようだ。

 エミリアは走りながら右手をレイスの方に向け、魔法を唱えようと構える。するとレイスは動きを止め、先ほどと同じ右肩の外側をこちらに向ける姿勢をとった。彼にとってそれが回避に最も適した型なのだろう。

 

(これはチャンスかも…)


エミリアは更に距離を開けてから魔法を発動する。


「【アクアブラスト】!」


 手のひらとレイスの足元に円が現れると足元の円から水の柱が勢いよくレイスを襲った。レイスは横に避け、直撃こそ逃れたもののバランスを崩したのだった。その隙を見逃さず、エミリアは続けざまにアクアバレットを発動させる。

 対するレイスは体勢を崩しながらも木刀を先を地面につけ力いっぱい横に振ると木刀に巻き上げられた砂ぼこりがレイスの姿を隠した。


 エミリアがさらなる追い打ちをかけようと構えた瞬間、砂けむりから何かが向かってくることに気付いた。

 「魔法か!?」と警戒し横に避けると()()はエミリアの後方でカランカランと音を立てる。

 エミリアは思わずその音の方向を確認するとそれは木刀であった。


 その一瞬であった…


 気を取られたその一瞬をついて砂けむりからレイスが飛び出しエミリアの方へ突進してくる。

 虚を突かれたエミリアが何とかアクアバレットを胸にめがけて発動するもレイスは足からスライディングする形で避け、そのまま片手で木刀を拾うとその勢いのまま、エミリアの方へ向きを変えながら立ち上がり前傾姿勢で突っ込む。


 「【アクアドーム】!」


 攻撃は間に合わないと悟り、咄嗟に発動させた魔法はエミリアの周りに水の膜でできたドームを出現させた。

 レイスはそれに衝突し、水の膜を抜けることはできたが、勢いを殺されてしまう。

 そしてその胸にめがけて追撃しようとしたエミリアの目に映ったのは木刀を持った左手を思い切り引き、突きに移行する構えに取っているレイスの姿であった。


 エミリアは距離を取ろうとするが自分の張った水の膜が背中に当たり十分な距離を開けることができなかった。その瞬間、引き切っていた左手をまるで弓から放たれたかのような速さの突きがエミリアを襲う。


「(もうだめか!)」


 エミリアの胸に木刀の切っ先が触れた瞬間、レイスは放たれた突きを強引に自分のほうに引き戻した。その勢いでレイスは横に半回転し、突進した勢いも相まってエミリアの横に滑稽に倒れ込んでしまった。


 エミリアは思考が完全に止まり、隣でピクピクと動く物体を凝視し、すぐに前かがみになりお腹に手を当てて笑い声を上げる。その笑いに反応するようにエミリアの胸のハンカチは静かに地面に落ちたのだった。

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