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10.そして彼は乗った

 太陽が背後の森へとかかろうとする頃。彼らは眼前に映る街を見下ろした。

 今、自分たちがいる小高い丘を下れば、街まであと小一時間程度で着くだろう。


 ここから見ても街の大きさはよくわかる。城壁で囲われた中心地にはいくつかの大きな建物が見え、その城壁を囲うようにして、その周りには家屋が密集している。そしてまたその周りには大きな畑が広がっていた。


「あれが学園都市…実際に見ると大きいな。あの中心にあるのは城か?」


 レイスは目を輝かせて街とエミリアたちを交互に見ている。


「あれは城じゃなくて宮庁。あの街を中心としたこの一帯、イオリアス地方の行政を取り仕切ってるところよ。簡単に言うとこの辺で一番偉い人たちが集まってるところ。それに王都にあるお城なんてアレの比じゃないくらい大きいわよ?いつか行ってみるといいわ。」


 エミリアは一通りの説明を終えると、まだ質問したそうなレイスを尻目に街へと歩みを進め、仕方なくレイスもその後に続いた。


 しばらく歩くと坂の傾斜もなだらかになり、周りの植物の背も低いものが増えてきた。先ほどまでは街の全体を上から見渡すことができていたが、今では宮庁の大きさを実感できるほどである。あとはこの平坦な道を進むだけなのだが…


「レイス。私と少し手合わせしない?」


「え?どういうこと?」


 エミリアの一言で一行は両脇に畑が広がる道に入る手前で足を止めた。


「決闘しようってわけじゃないのよ。ただね、あなたのことをもう少し知りたくなって。でも全然話してくれないから……あなた剣士なんでしょ?じゃあ戦うほうが手っ取り早いじゃない。それに街の中、つまりこの先に入っちゃったら無益な戦いは処罰の対象になっちゃうからね。」


 レイスはその申し出に困惑した。相手は女子だ。前の世界でも指導こそすれ、手合いなどしたことがない。しかしその一方で自分の腕がどれほどか試してみたいとも思う。

 そして一呼吸を置いてレイスは答えた。


「わかった。よろしく頼む。」


 この機を逃しては実力を測る機会が次にいつ来るのかわからない。

 それにエミリアはロアウルフとの戦いや周りの兵士やロバスたちの接し方からして恐らく、この世界では腕の立つほうだと思う。


「ただ、一つだけ条件として、お互いに命の危険がないようにしてくれ。ああ…手加減してくれってわけじゃない。ただ、万が一のことがあってほしくないんだ。」


 レイスの提案にエミリアも頷くと落ちていた小枝を一本、手に取った。


「あんまり生成魔法は得意じゃないんだけど。これくらいなら…【形成せよ。クリエイティブソード】」


 エミリアの手にある小枝を中心に見たこともない文字が描かれた小さな円が現れるとそれが収縮し小枝は木刀に変化した。レイスは小さく感嘆の声を上げる。


「それと…これでいいわね。」と木刀をレイスに渡しながら鞄から二枚のハンカチを取り出し一枚をレイスの胸に押し当てた。


「【接着せよ。グルーブ】。」


 そう言うと今度はハンカチを中心に同じような現象が起き、エミリアが手を離してもハンカチはレイスの胸にくっついたままであった。それを確認すると自分の胸にもハンカチをつけ、またレイスと距離を開けた。


「ここだと少し邪魔になるかもしれないからあそこの開けたところでやりましょう。」


 そう言いエミリアは道から外れた地面が露わになった場所を指差し、ロバス一行が呆気にとられているのを気にも止めず、二人は対峙した。

 そしてレイスは僕との重さを確認するように右手に持った木刀を手首を動かし上下させてから口を開いた。


「それじゃあ、はじめようか。でも…どっちが負けても恨みっこなしだ。」


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