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9.そして彼は困惑した

(魔力の元…意思を持つ魔力…封印…)


 レイスは思案した。しかし一向に情報は流れてこない。どうやらこの世界の根幹にあると思われる【魔力】というものは一般的ではないようだ。

 なのに魔王自体は誰でも知っている。その顛末も…


(神は言った…俺に魔王を倒せと。つまり…どういうことだ!?封印されている魔王を斬れってことか!?それとも別に魔王が!?)


 ただでさえこの世界に急に飛ばされ、魔獣や魔法というよくわからないものに触れ、そしてここに来て唯一、明確だったはずの目標まであやふやになってしまった。


「あのさ…」とレイスが疑問をぶつけようとするとそれを遮るようにより大きな声でエミリアは返す。


「だめよ。次は私の番。それに応えたらまた教えてあげる。それで…あなたは一体何者なの?どこの出身?どこで実戦というか戦い方を学んだの?」


 エミリアはグッと距離を詰め、尋問するようにこちらの目を見つめた。

 レイスには神との二つ約束事があった。その一つが【違う世界からやってきたということを言わない】というものだった。


 理由はそんな現象も魔法も存在しないからだそうだ。

 どうやら俺の世界よりも魔法によって人間のできることの幅は広いらしい。俺もそれはこっちの世界に来て歩きながら魔法についての一般的な知識から得ることができたが、ついさっき雷の槍がこの少女の手から出てくるまではにわかには信じ難かった。

 そんな魔法でもこの世界には別の世界の人間を転移させるような魔法は存在しない。よって俺の話は信じてもらえない。もし信じた奴がいたとしても大方は実験の材料にされるというものだった。


 もう一つの約束は【神の存在を言わない】というものだ。こちらの理由のほうが俺にはわかりやすかった。そんなことを言えばこの世界の宗教勢力から目をつけられるからだ。

 この世界の最大の宗教である【マルス教】は生活の基盤であり、権力、影響力は計り知れない。そんな世界で俺が『神に言われて魔王を倒しに来た』なんて言ったら……。俺の世界でも宗教の怖さは充分、目の当たりにしている。


 この2つの約束を守るとなるとエミリアの質問に答えるのはとても難しい。まだ俺の奥義を教えるほうがよっぽど簡単だ。などと考え込んでいると。


「そんなに答え辛い質問だったかしら。なら謝るわ。誰にも言えないような秘密はあるものね。なら…そうね。何か言える範囲で教えてくれることはないかしら?例えば…あなたはどこかの軍の指揮を執ってたりしていたの?」


 エミリアは不満そうな顔をしたのと同時にこちらの思いを汲んでくれたらしい。


「軍の指揮は執ったことはないな。でも戦い方を教える立場にはいたよ。ただ、それもいっときのことで俺の本分は剣士だ。ありがとう。気を遣わせたな。」


 それだけ言うとレイスは考え込むのをやめ、前を向いた。とりあえず今は学園都市とやらで情報を集めるのが最善という結果に至った。それに俺は剣士だ。うだうだ考えていても仕方ない。この世界に来た目標は見失ったが、まだ自分は剣士としての目的は果たしていない。


「なぁ、ロバスさん。学園都市に剣の腕を試せるようなところはないかな?」


 レイスは後ろを振り返り荷台から顔だけ出しているロバスに問いかけた。


「剣の腕か。君の期待に添えるか分からないけど、学園都市ならハンターの養成所がいくつかあるはずだよ。そこの難関と言われる養成所であれば入所試験があるはすだよ。」


「教える立場からまた教えを乞う立場にか。とりあえずそこに行ってみるよ。」


 レイスは片手を上げまたエミリアの方を向いた。


「ところで、魔法はみんな使えるものなのか?」


 エミリアはやれやれとでも言いたげな顔で答える。


「みんなが使えるってわけじゃないわ。生まれ持っての素質と努力よ。ちなみにこう見えて私は青魔道士二級よ。どう?すごいでしょ!」


 レイスはキョトンとした顔を返すのが精一杯だった。そして森の出口がついに現れた。

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