7.そして彼は知った
「通りすがり?」
エミリアは思いもよらなかった答えに拍子抜けした声で答えた。それでもその答えは嘘ではないようだ。というより嘘を言う必要がないからだ。…まぁこんな状況で冗談を言う人間なら話は別だが。
「じゃあその通りすがり屋さんに私たちは助けられたってわけね。私はエミリア。エミリア=ギャレットよ。本当に助かったわ。」
彼女は少しの間を置いて片手をレイスの方に差し出した。
「こちらこそ助かったよ。あんたたちが居なけりゃ、俺だってただじゃすまなかった。それで…」
と、レイスは差し出された手を握りながら倒れている兵士たちの方を見渡す。
「私たちも警戒してなかったわけじゃない。ただここにロアウルフが出るなんて思ってなかったから完全に不意を突かれたわ。あの人たちは街の方で供養する。あなたが気にすることはないわ。」
(なるほど…俺の世界と同じで人が死ぬことが日常の一部なのか…)
レイスは握手を解きながら荷台に遺体を積むのを手伝うと話し。エミリア達の雇い主である男、ロバスも荷台では可哀そうだということで自分が乗るはずの座席に寝かせることを提案した。
「それで、この…ロアウルフはどうするんだ?」
レイスは周りに散らばった荷物を片付けながら、倒れた狼を見つめるエミリアに話しかける。
「とりあえず道の真ん中に置いておくわけにはいかないから脇の方に寄せておくわ。あとは森の獣たちが処理してくれるでしょう。それと…」
おもむろにエミリアは腰に差していた短剣を抜いてロアウルの牙と耳を切り落とし鞄から取り出した袋に詰め込んだ。
「それは一体何をしてるんだ?」
レイスは片付けていた手を止め、その一部始終を見ていた。
「え?そりゃあ、街に持っていってハンターギルドにロアウルフが出たってことを知らせるために耳を提出するのよ。それに討伐したから報奨金も貰えるし。それにロアウルフの牙は魔法の道具の触媒になるからね。」
いつもの脳裏に知識が浮かぶことはない。これらの情報は一般的ではないということか。それにしてもこの能力は使い勝手がいいのか悪いのか分からないな…などと考え込んでいるとエミリアが納得したような表情で近づいてくる。
「本当にハンターじゃないのね。ハンターなら真っ先に提出用の魔獣の一部を切り取るからおかしいとは思ったけど。あなた一体何者?」
(魔獣……ああ、これは一般常識らしい。なるほど、魔力を有する獣…そのまんまか。ところで魔力って……そうか、人なら魔法、魔獣なら能力を使う時に必要なモノってこと……こんなことしたら一生、脳裏に情報が流れて疲れるな。)
「ねえ?急に黙ってどうしたの?」
レイスが我に返るとエミリアが心配していたが彼は「なんでもない。」とすぐに微笑み、再び作業に戻った。
各々の作業が落ち着き始めると、
「出発する前にところでいくつかお願いしてもいいか?」
一行が再び動き出す準備が整うを見計らってレイスは投げかける。するとすぐさまロバスがその質問に答えた。
「ああ、あんたは命の恩人だ。何で聞いてくれ。」
「俺は、その……田舎から出たこと無くてほとんど何も知らないんだ。ロアウルフのこととか魔王のこととかさ。できればあんた達に同行しながらでいいから色々教えてくれないか?この先にある学園都市まででいい。」
するとエミリアが自分の鞄を背負いながら答えた。
「あなた、運が良いわね。私たちの目的地も学園都市よ。私もあなたに興味があるからお互いのことを話すってことならいいんじゃない?ねぇ、ロバスさん?」
それに応じるようにロバスは首を上下に振る。この男…面白いな。とレイスは口に出さないように心でつぶやいた。
「じゃあ出発しましょうか。この森もあと少しで抜けれるはずだから、陽が傾かない内に抜けたいわ。」
ロバスは再び首を上下に振るとそれを確認し、一行と通りすがりは出発したのだった。
「そうだ、あなたの名前、まだ聞いてなかったわね。まさか【通りすがり】なんて名前じゃないんでしょ?」
「ああ、悪い。えっと俺の名前は…レイスだ。短い旅になるがよろしく頼むよ。」
「分かったわレイス。まずはあなたの質問からね。魔王についてだけど、残念だけど知らないわ。だって500年も前に倒されちゃったんだから。」
「はぁ!?」
レイスはロアウルフを見たときよりも驚き、その声は静寂を取り戻りしたはずの森に響いた。
投稿が一日ズレてしまいました。できるだけ日曜日と余裕があれば水曜日に投稿しますのでよろしくお願いします。




