憧れた先に
ゴーンゴーンと鐘の音が小さな港に響き渡る。
風が木々を優しく揺らし、穏やかな波から漁船が寄港する。
ここフニスの村では珍しくない光景だ。
荒々しい漢達が釣果をここで披露し競りを行う。
平和そのものである日常を目にしながら、退屈を抱く少年がいた。
「あぁ〜ひまだなぁ〜」
窓枠に腕をかけ顎を乗せて怠そうに呟く。
「なんか変わった事でも起きねぇかな〜」
突然怪獣が襲ってくるとか、王様が急にやってくるとか、御伽話のような事が起きるとか。
「な〜んもねえし」
「コラッ!サフティ!こんなとこで何油売ってるのさ!ほらほら、暇だってんならこっち手伝いな!」
「え〜いいよ。それよりもさ「つべこべ言わない!」
ゴンッと鈍い音が鳴る。
頭蓋骨が割れたのかと思うくらいの拳骨を頂いてしまった。
星が見える…
「行くよ!」
首根っこを掴まれたまま引きずられて自室を出ていくのであった。
この状態で外に出てもいつもの光景かと気にする様子はまるでない。
サフティがまた女将にやられてるよ、怠け者だからな、などなど好き放題言ってくれる。コノヤロー。
連れてこられたのは女将の旅館だ。
小さな港に似つかわしくない程であり、なんでも都市からわざわざここまで引越して開いたらしい。
「ここで魚でも捌いてな!内臓出すまででいいから」
「はぁ」
「返事!!!」
「はいはい」
「はいは一回!!!!!」
「はいはいわかりましたって」
鈍い音が少年に響いた。
⚫︎◆⚫︎
「はい、お疲れ様。これ今日の給金」
「ん、ありがと」
「また暇だったら来てくれていいわよ」
「いやいや、元々あんたがいきなり連れ出しといて何言ってんだ」
「それもそうさね」
威勢よく笑い飛ばしている女将を横目に家路を急ぐ。
まあ実際暇だったから良かったけれど。
それにしても面白くない。
時間にして七時間くらい経っただろうか、それでも太陽は位置を変えない。
前に旅館で聞いた話だが、照り続ける太陽のせいで海の水位が僅かではあるが下がり続けているそうな。
当分の間は大丈夫だろうが、何とも言えない不安に駆られるとかなんとか、身なりの良さそうな大人がいってたな。
「それにしても…」
一体いつから太陽が居座るようになったんだ?
心の中で言葉を繋ぐ。
物心つく、というか気付いた時にはそれが当たり前だった。
女将達島の人間も最初からと口を揃える。
物語や文献では、その昔【夜】と呼ばれる真黒な空が広がり煌めく欠片が散りばめられた空があったという。
「太陽の無い世界…」
信じられないし受け入れ難い。
それこそ御伽話だ。
なんて事考えていたら家路を終える。
玄関の扉を開いた時に眼前に飛び込んできたのは
「____ん?なんだお前?」
乱暴に肉を喰らい、酒を呷る男の姿だった。
「な、え?」
「いや違うな。サフティだろ!会いたかったぜ!」
男は喰い途中の肉を捨て、笑みを浮かべてサフティへ歩み寄る。
その時、男が背負っている剣に目がいった。
得体が知らない男が武器を持っている。
サフティが緊張するのに十分な要素は揃っていた。
「おいおい、まさか覚えてねえのか?」
「なんだ…お前は…?」
土足で家にいたことではなく、ただ何者なのだと問いかける。
顎に指を当て髭を撫でながら男は語る。
「俺はお前の_____
刹那、男は四方から槍で貫かれる。
完全に不意打ったことで足と腹から鮮血が撒き散る。
「この子に手出すんじゃないよ」
男の鮮血は槍を塗らすも、関係ないと言わんばかりに歩みは止まらない。
「随分と手荒な歓迎じゃねえか!結構結構!」
男は剛腕を薙ぎ払い四本の槍を砕く。
旅館の従業員、もとい女将達は殴りかかる。
「なんだ?手応えねえな?」
従業員達は振るわれた拳を受けた側から霧散していく。
その光景に女将は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
「そらそらどうした!このままじゃ全部消えちまうぞ!」
従業員達は床板を使った奇襲、槍や剣といった武器による突貫も全て男の剛腕が無に返す。
霧散し、霧散し、減り続ける。
女将が劣勢なのはサフティの目からでも明らかであった。
「はぁ、仕方ないね」
「女将…?」
懐から出したのか、はたまた最初から持っていたのか独特な金色の八芒星の円盤を首から下げる。
「八の七」
「っ!」
女将が腹部の前で拳を構える。
円盤の輝きが増し、空気が変わる。
男からは焦りが現れ防御に移ろうとするも間に合わない。
「一つとない定め!!!!」
しかし、それに対して
「我、ここに在り!!」
男は腕を広げ大の字で仁王立ち。
女将の振り抜かれた拳が直撃する。
凄まじい衝撃波が辺りを包み、サフティの家を吹き飛ばす。
その衝撃にサフティ自身も攫われそうになるが、
「おっと、お前はこっちだ」
がっつりと腕を掴んできた無傷の男はそのまま空を飛ぶ。
「サフティ!!」
「すまんなレディ。こいつはいただいていくぜ」
はるか上空では抵抗も出来ないサフティはまるで空を歩くかの如く悠々闊歩する男に攫われてしまうのであった。




