第2章:アメリカはなぜ失敗したのか──夢に負けたズムウォルトの構図
かつて、アメリカはレールガンに夢を託しました。
ズムウォルト級駆逐艦。
それは、「21世紀型主力艦」という壮大な看板を背負った、未来志向の軍艦でした。
この艦のためにアメリカは、火薬式主砲に代わる新世代兵器──
すなわち「超高速・超長射程の電磁加速砲=レールガン」を搭載しようと試みたのです。
ズムウォルト級が目指したものは、単なる艦砲の延長ではありませんでした。
・155mm砲弾(約46~62kg)という重量物を、
・数百キロ先まで、
・火薬ではなく、
・電磁力だけで加速して飛ばす
それはもはや「砲撃」というより、
**"運動エネルギーを用いた遠隔精密打撃システム"**の構想に近いものでした。
しかし──
この構想は、技術的現実との間に横たわる巨大な裂け目に飲み込まれていきます。
なぜなら、レールガンという技術は、本質的に、
加速させる対象が重くなればなるほど、指数関数的に難易度が上がるからです。
・弾頭重量は三次元(体積)に比例して増加する
・レール接触面は二次元(長さ×幅)でしか増加しない
結果──
大重量弾を発射するには、
・異常なまでの電力供給
・異常なまでのレール耐久性
・異常なまでの冷却能力
を同時に要求することになり、
どれか一つでも成立しなければ、兵器としての持続運用は不可能となるのです。
実際、アメリカの試験では、
数発の発射でレールが摩耗・変形・破損する事例が続発しました。
理論上は「飛ばせる」。
しかし、現実には「使えない」。
これがズムウォルト計画における、レールガン構想の挫折でした。
さらに言えば──
この「遠距離精密打撃」という思想そのものも、
実はレールガンよりも巡航ミサイルや極超音速滑空体(HGV)に適していた、という構図のズレもありました。
レールガンは、「撃った後も空気抵抗を受け続ける」通常弾体です。
たとえ超高速で発射しても、数百キロを飛翔する間に減速し、着弾エネルギーが大きく減衰してしまう。
つまり、
長距離打撃という用途にも、構造的な向き不向きがあったのです。
ズムウォルト級は今、レールガンではなく、
従来型の155mm砲とミサイルシステムを搭載して就役しています。
レールガンは、夢の中に取り残されました。
けれど──
ここで重要なのは、「レールガンという技術が失敗した」のではない、ということです。
失敗したのは、
レールガンに“無理な使い方”を求めた運用思想のほうだったのです。
夢を見すぎたとき、
現実は、どこまでも静かに、それを拒絶する。
ズムウォルトの物語は、そんな**“夢と現実の摩擦熱”**の記憶として、今も海を渡っています。