いざとなったら私の剣となり
バロン・ヤン・ヘルトケヴのダイナミックな指揮。王立アルデバラン交響楽団の鳥肌が立つ様な見事な演奏。
第二部の演奏会は、盛大な拍手と共に終了した。
ホワイトホールはこの後、パーティー会場として使われるため、専門の業者により模様替えが大急ぎで行われる。その時間を使い、生徒達は制服からドレスやテールコートへ着替えだった。
校内には大部屋であるが、更衣室が学年ごとに用意されている。
ここで皆、一斉に着替えだった。
「ではお嬢様、着替えをしましょう!」
衝立が用意されており、その中で姿見を前に、侍女に手伝ってもらい、着替えとなる。
この日のパーティーのために仕立てたロイヤルブルーのシルクのドレス。身頃は立体感があるコードレースで飾られ、スカートには2色のチュールが重ねられている。ウエストのリボンは美しいドレープを描き、模造宝石も散りばめられている。
大ぶりのパールの宝飾品で大きく開いたデコルテを飾り、耳元には小粒のパールのイヤリング。
髪はハーフアップで柔らかい印象になるようまとめた。
「ソフィー嬢、とっても可愛いですわ!」
「ふふ。これね、一足早く、春の妖精さんをイメージしたの!」
ヒロインの嬉々とした声が聞こえ、私の心は一気に沈む。
今日のこのドレス。これが悪役令嬢リナにとっての死装束となる。そこで聞こえてくる鐘の音。
いよいよだった。
「お嬢様。パーティーの開始時刻が近いということですよね。制服など馬車へ運んでおきますから、どうぞ、会場へ向かってください」
「ええ、ありがとう」
死地へ送り出されるのに、笑顔で見送られるのは……。でも侍女は何も知らないのだ。
そこでハッとする。
「ごめんなさい。待って頂戴」
侍女が抱えている制服のポケットからあの小瓶を取り出す。
「お嬢様……?」
「ほら、まだ社交界デビュー前でしょう。大勢の前でのダンス、緊張しそうだから……」
「! なるほど。でもお嬢様は王家の行事で幼い頃にダンスも披露されていますし、大丈夫ですよ。でももしもの時のためにお持ちになるのはよいかと」
「ええ、もしもの時のために持って行くわ」
こうしてドレスのポケットにそっと劇毒の入った小瓶を忍ばせる。ガラスの靴をイメージしたパンプスに履き替え、更衣室を出て、エントランスへ向かうと……。
そこは着飾った令嬢と正装した令息で溢れている。
「あっ……!」
パーティーに合わせ、いつもおろしている前髪は左側を後ろに流し、そこにキリッとした眉毛が見えている。細身のウエストシェイプされた濃紺のテールコートは、彼の脚の長さと長身を際立たせ、実によく似合っていた。
きちんと正装したレイモンドは、やはり秀麗だ。
「王太子殿下~!」
そこに駆け寄るのは、砂糖菓子みたいなピンク色のふわふわのドレスを着たソフィーだ。
「殿下、とってもカッコいいです~!」
視線を逸らした瞬間、目に飛び込んできたのは、アイスブルーのテールコート姿のキルリル皇太子だ。
サラサラの銀髪はいつも通り。だが純白のマントを羽織ることで、童話に登場するような、まさに皇子様に見えた。
「ジョーンズ公爵令嬢、そのドレス、とてもよくお似合いです。君の雪のような肌を際立たせる美しいドレスですね」
「ありがとうございます、キルリル皇太子殿下。殿下のテールコートも、あわせているマントもとても素敵です」
「これは帝国の騎士の儀礼用のマントなんです。それに合わせ、礼装用の剣も着用しています」
彼の言う通りで、腰には沢山の宝石が散りばめられた剣を帯びていた。鞘には見事な彫刻もあしらわれ、金銀で装飾されている。確かに礼装用の剣ではあるが……。
キルリル皇太子はいざとなったら私の剣となり、守ると言っていたので、少しドキッとしてしまう。
だがこれは礼装用の模擬剣。
何より私はキルリル皇太子より先んじて動く。
よって大丈夫。
「それではホワイトホールへ向かいましょうか」
「はい。そうしましょう」
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