その異名のゆえん
ロダンという名の元修道士。
彼は、“はずれ修道士のロダン”という異名を持つ。
その異名のゆえん。
それは――。
孤児として、修道院に併設された孤児院で育ったロダン。彼は子供の頃から記憶力が良く、それは味覚や嗅覚にも及んだ。一度食べた味、嗅いだ匂いを忘れない。食べ物も飲み物も。一口食べれば、使われている材料から調味料まですべて分かってしまう。
修道院では、孤児院を含め、その維持を貴族の寄付でまかなっていた。しかしその寄付頼みでは、その貴族が寄付を止めれば存続が危ぶまれる。貴族が没落すれば、共倒れになってしまう。
要するに修道院は、自ら現金収入を得る必要があった。それに修道院や孤児院は自給自足を原則としているが、現金だってないと困る。
そこで多くの修道院では、パンや焼き菓子を作ったり、薬草を使ったリキュールを製造したりしていた。
それらを販売し、現金収入を得るのは勿論、貧しい人々や旅の人間への施しにも活用されていたのだ。
つまり修道院は、そもそも薬草の研究が盛んな場所。そしてロダンは、その記憶力から、薬草の知識が並外れていた。
その結果、ロダンは副修道院長に二十七歳で抜擢される。もしそのまま副修道院長として功績を重ねれば、修道院長にだってなれたはず。ところがロダンは修道院を飛び出してしまう。
その理由を本人が明かすことはない。可能性として考えられることはいくつかある。
修道院は「聖なる祈りを捧げる場」のはずだが、汚職やスキャンダル、腐敗した事件とは無縁ではない。虐待や性的な嫌がらせ、横領や贈収賄といったドロドロした事件も起きている。
そういったものとロダンは遭遇する機会があり、嫌気がさしてしまったのではないか。
ともかく修道院を飛び出し、王都のはずれに住み着く。基本は自給自足で、畑などを耕し、生活している。だがやはり、現金は必要。そこでその知識を生かし、薬草を煎じて売るようになったと言う。
「依頼主の情報を口外したり、勘ぐったりすることはないそうです。ですが依頼は対面でのみしか受けないとのこと。相手が貴族でも、従者や侍女からの依頼では受けないそうです。そこは……元修道士であるゆえの、彼なりの美学があるようで……」
顔の見えない人間は、信頼できない。依頼人の顔はちゃんと見るが、詮索はしないということのようだ。
「分かったわ。ロダンのいる場所へ出向きましょう」
こうして私は十二月の日曜日。
大聖堂での祈りを終え、宮殿でブランチをした後、キルリル皇太子の屋敷には戻らず、ロダンの元へ向かった。
毎週、日曜日に宮殿へ向かうことは、キルリル皇太子も知っている。そして宮殿へ出向いた私に「何時に屋敷へ戻りますか?」とキルリル皇太子が聞くことはない。暗黙の了解で、夕食の席で会いましょう……になっていた。
それは私が王太子の婚約者であることからの配慮だった。
しかしレイモンドが私に婚約破棄と断罪を考えていると知ると、宮殿へ出向くことを、キルリル皇太子は心配してくれる。それでも「国王陛下もいる宮殿で、何か起こることはありません」と宥め、これまで通り、夕食までに戻ると約束し、落ち着かせていた。
よってキルリル皇太子が私を心配し、動くことはないはず。そしてレイモンドはもう私に無関心だろうし、何もしないだろう。
ということでブランチを終えた私は、「街で下着を買うので、同行するのは侍女のみでいい」とほとんどの護衛の騎士を、キルリル皇太子の屋敷へ戻した。その上でロダンの元へ向かうことにしたのだ。
一人だけ同行する護衛の騎士は、公爵家の騎士であり、私が幼い頃より仕えてくれている。私にとっての忠臣の一人なので、彼ならロダンの元へ向かったこと、絶対に口外することはなかった。
こうして王都のはずれへ向かうため、馬車を走らせた。
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