日曜日が待ち遠しい!?
幼い私が必死にとった婚約破棄されるための行動。それはこの世界で全て無効化されてしまう。
なぜなら悪役令嬢リナは、悪童設定なんてないからだ! むしろ私の行動のリカバリーで、レイモンドとの距離が縮まってしまう!
そこで無駄な足掻きは止め、黙々とボトルシップ作りに没頭していたわけだが。
「リナ、もうすぐ日没になってしまう。帰らないといけないね」
レイモンドに言われ、私は手元のパーツをじっと見る。あと少しで飾り用の錨が完成だったのに!
「……リナ、もう少し、作業をしたい?」
「したいでしゅ」
こういう時は言葉足らずな言い方が効果があると、中身アラサーなので学んでしまった。
私の返事を聞いたレイモンドはキリッとした表情になる。
効果あり、だ。
「分かった。任せて、リナ。父上と公爵に相談してみるよ」
レイモンドは大変優秀なので、あっという間に私が作業を続けられるよう、国王陛下にも、私の両親にも許可をとってしまった。しかもそれならと、国王陛下が「夕食を王族のみんなと食べればいい」と言ってくれたので……。
「リナ、夕食まであと二時間あるよ!」
レイモンドの言う通り!
夕食までの時間。思う存分作業ができた。
だが、それがこの乙女ゲームの世界が私に仕掛けたトラップであったことは……ずっと後になり、分かる。
ともかくこの日は満足して帰り、翌日からは……。
マナーや礼儀作法、ダンス、教養と学びの日々。
もちろん、遊びの時間もある。
同年代の令嬢を招いてお茶会もあるが……。
「このいちごのタルトはおいしいでちゅね」
「チョコレートもあまいでしゅ」
繰り広げられる会話はこんな感じ。
正直。
つまらない。
だってみんな三歳児か四歳児。
だが私は中身がアラサーなのだ。
お人形遊びは退屈だし、刺繍をするならボトルシップを作りたい。
さらにはレイモンドは年齢より大人びているし、ボトルシップの話は勿論、ティータイムで話すことは、大人のレベルと変わらない。つまり聞いていて脳が喜ぶのだ。
そうなるともう、日曜日が待ち遠しくなる。
そこで迎えた日曜日!
「リナ。今日は港に行かない? 新型の豪華客船が今朝、港に入ったって。しかも船内のティーサロンは、乗客ではなくても利用できるんだよ! いろいろな国を経由してきたから、舶来品のスイーツも食べられる」
レイモンドにこの提案をされた私は!
「行きたいでしゅ!」
エキゾチックな豪華客船のティーサロンでは、中華菓子のようなものを食べることができた。胡麻団子や月餅のような物をまさかこの世界で食べられるなんて! しかも今日も夕食は王宮で食べられるのだ。ティーサロンが終わったら、屋敷へ帰らなければならない!とはならなかった!
それどころかこの日は……。
まもなくニ歳のアンジェリーナ王女が夕食前、ボトルシップを作るレイモンドと私のところへ顔を出したのだ!
「おにいちゃま、こうしゃくれいじょうさま〜」
アンジェリーナ王女は「おひめさまみたい!」と私に懐いていた。作業をする私の手元をじっと見て「やってみたい!」となる。
「じゃあここにいろをぬって」
「うん!」
素直なアンジェリーナ王女は実にかわいい。
前世では一人っ子だったからこそ、同性の姉妹には胸が踊る。
とはいえ。
アンジェリーナ王女にいろいろ教えながらだと、作業ははかどらない。
すると翌週。
「マークもボトルシップ作りに参加してもらうことになった。アンジェリーナはマークに習うといいよ」
「マーク! もうひとりのおにいちやま! おしえてー」
アンジェリーナ王女は当然マークを知っている。そしてマークにとってアンジェリーナ王女は王太子であるレイモンドの妹。大切に丁重に扱う。
そしてマーク自身は、ボトルシップ作りに没頭したいわけではないので、アンジェリーナ王女にいくら質問されようが、手取り足取り教えることになろうが、全く気にしていない。
レイモンドの采配はまさに適所適材だった。
「リナ、もう少しで完成だね! 後はしんちょうに帆を張ればいい。でもタイムアップだ。夕食の時間だね」
そうレイモンドに言われた時は。
まさに断腸の思い。
それは……みんなにも伝わった。
「夕食の後、少しだけ頑張れば完成ですよね」
マークも残念そうに言ってくれる。
「おにいちゃま。こうしゃくれいじょうさまは、おとまりダメなの?」
「それは……」
これにはビックリ。流石にお泊まりは無理だ。でもレイモンドはこれまた夕食の席でこう言ってくれた。
「父上、食後のデザートタイムを少し早めに切り上げ、ボトルシップの最後の仕上げをしてもいいでしょうか?」
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次話は19時頃公開予定です~