本意ではない。
レイモンドとソフィーが婚約破棄と断罪について話しているのを聞いた時。
もし私が一人だったら、ショックで気を失っていたかもしれない。でもキルリル皇太子がいてくれたから、そうはならずに済んだ。しかも彼は国同士で敵対することになっても、私を守ると誓ってくれた。
そんなキルリル皇太子を頼もしく思うのと同時に。
もしも私のせいで、アルデバラン王国とノースアイスランド帝国が戦争状態に突入したら……と、冷静に考えてしまった。
キルリル皇太子が最初に誓ってくれた時。断罪の可能性は限りなく低いと私は思っていた。何せ私はソフィーに対し、シナリオにあるような意地悪はしていないのだから。
ところが今回ソフィーは、私が断罪されるに値する何かを多分、でっち上げるつもりなのだ。そのでっち上げが成功してしまったら、私は断罪になる……。
人間の心は、物事を自分の都合のいいように考えてしまいがち。婚約破棄されても、断罪はない――そう勝手に思い込んでいた。だが断罪される可能性が高まり、キルリル皇太子が私を助ける意味について、深く考えることになる。
王太子であるレイモンドに歯向かうことは、決定的な亀裂を生むだろう。貴族同様で、王族だって名誉を重んじる。名誉を汚されることがあれば……。
特に国の頂点に立つ王族であれば、戦を辞さないと思うのだ。つまりアルデバラン王国とノースアイスランド帝国の開戦につながりかねない。
もしそんなことになれば、家族が大変なことになる。両親も兄も、処刑される危険もあった。
さらに幸せな道を歩もうとしているアンジェリーナ王女とマーク。戦争になれば結婚どころではなくなる。それにクラスメイトや教師のみんな。アルデバラン王国の国民たち。
彼らは何の罪もないのに、戦争に巻き込まれることになるのだ。
そんなことになってはいけない。
自分の生存のために、大勢を犠牲にすることは、本意ではなかった。
ゲームのシナリオに従えば、婚約破棄と断罪は卒業式の後に行われる舞踏会で起きるイベント。それが思いがけず、大幅な前倒しで行われることになった。
イレギュラーが多いこの世界。
前倒しになることに驚きはない。
それよりも、なによりも。
どうするのか。
生きたい。死にたくはない。
だが自分が生きるために、無関係な人達を犠牲にしていいわけがない。
答えを求め、でも見つからない。
こうして日曜日を迎え、そして中庭でレイモンドが言っていたブランチが始まった。
既に王家の中では、アンジェリーナ王女とマークの婚約は公然になっている。よってブランチの席で、アンジェリーナ王女はマークの腕の火傷がかなり回復してきたことを報告。
国王陛下は「婚約式のためのドレス。そろそろ仕立て始めるといいのでは?」とアドバイスしている。王妃殿下は「宰相に侯爵位を授けては?」と、国王陛下に提案。
しばらくはアンジェリーナ王女とマークの件で盛り上がった。
その話がひと段落したタイミングで、レイモンドがおもむろに口を開いた。
「学校は期末試験も終わり、カウントダウンのチャリティーコンサートでの合唱の練習に追われています。合唱もそうですが、この日はパーティーも行われますよね。僕は婚約者であるリナをエスコートするつもりでいましたが、キルリル皇太子は同伴者がまだ決まっていません。現在、リナは彼の屋敷で客人として滞在しています。ここはキルリル皇太子がリナを同伴するのでどうでしょうか? 僕は適当に相手を見繕います」
国王陛下の前で、私をエスコートしないと、レイモンドが明言した。しかも自分ではなく、キルリル皇太子にエスコートさせては?と提案したのだ。
だがこの提案。
突拍子がないものではない。
婚約者がいないキルリル皇太子にエスコートされた令嬢は、間違いなく、噂になる。新聞でも「もしや婚約者!?」と大騒ぎになるだろう。
だが王太子の婚約者である私をエスコートすれば、変な噂は立たないし、大事にはならない。火事で王宮が燃え、私がキルリル皇太子の屋敷に滞在していることは、公になっている。その私を同伴しても「ああ」となるだけだ。
何より国民は今の状況を知らない。
王太子であるレイモンドが男爵令嬢ソフィーと急接近し、私とキルリル皇太子が過ごす時間が多いことなんて。ゆえにキルリル皇太子が私を同伴しても、国民が騒ぐとは考えにくい。
それにしてもキルリル皇太子に私を任せ、そして自身は「適当に相手を見繕います」。
ソフィーのことを出さないのは……。
私を決定的な情報で断罪し、国王陛下が婚約破棄を認めざるを得ないような状況になってから、ソフィーの名を出すつもりなのかもしれない。頭のいいレイモンドなら、そうしそうな気がする。
こんな予想しかできない理由。
それはゲームにおいて、婚約破棄と断罪を告げる前に、レイモンドが国王陛下に許可をとっていたのか。そんなところまで描かれていないからだ。根回しをしたのか、断罪するべきことがあるのだから、押し切る流れだったのか。正解が分からない。
「なるほど。キルリル皇太子がエスコートする相手……。そうだな。アンジェリーナはそのパーティーには参加しない。リナ、キルリル皇太子殿下を任せてよいか?」
「勿論です、国王陛下。キルリル皇太子殿下には、とてもよくしていただいているので、お任せくださいませ」
「うむ。頼んだぞ。……ところで王宮の復旧工事が進み、リナの部屋はほぼ完成だ。年が明けたら、リナは一足先に王宮へ戻るのでもよいのでは? アンジェリーナはマークの看病もある。工事が終わっても無理に戻る必要はない。だがリナはそろそろ王宮が恋しいのでは?」
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