一瞬の迷い
「ジョーンズ公爵令嬢、カウントダウンのチャリティーコンサートの打ち合わせがあります。三学年合同開催で、放課後、3年C組の教室を使い、行われるそうです」
「分かりました。今日は日直なので、日誌を職員室へ届けたら、直接3年C組へ向かいますね」
「了解です。では現地集合で」
キルリル皇太子と私は、ボランティア委員として、次なる活動に追われていた。
十月末の中間試験が終わると、ホリデーシーズン休暇に向け、世の中全体が忙しくなる。
というのもアルデバラン王国は創建時、初代国王の人気がとても高かった。そのため、法で建国記念日=国王の誕生日と定められた。そして建国記念日、国王の誕生日は国民の祝日となるが、休みが一日なのは、国民としては惜しい。
そこで国王誕生日&建国記念日の前後の日は「前夜祭」「後夜祭」という名目の祝日になる。しかも祝日が日曜日と重なると振替休日となるのだ。そして今生の国王陛下は12月15日が誕生日。
本来、ホリデーシーズン休暇は12月20日スタートなのだが、現国王が即位してからは、ほぼ多くが12月15日頃でホリデーシーズン休暇が開始となる。
学校は独自で休校日を設定できるので、飛び石になる平日を学校指定の休校日にしてくれるのだ。
ということでカウントダウンコンサートの準備は、試験の返却が終わると共にスタートする。
さらにホリデーシーズン休暇が早いので、期末試験も、12月上旬に行われるのだ。
通常の授業と共に試験対策の勉強を行い、さらに学園主催のカウントダウン・チャリティーコンサートの準備も必要になる。コンサートは、第一部で全学年、各クラスが合唱を披露。そこは合唱コンクール委員とも連動しながら、選曲と練習を進めることになる。第二部は外部からオーケストラを招いての演奏会。そしてこの演奏会の後、パーティーが行われるが、それはパーティー実行委員がいるので、彼らが担当してくれる。
ということで入学以来の大きなイベントである、カウントダウン・チャリティーコンサートの準備で、まさに忙しくなってきたこの日。
六限目の授業を終え、日誌を手早くまとめ、職員室へ向かった。
「はい。確かに日誌、受け取りました。ご苦労様でした」
「では先生、これで失礼いたします」
日誌を提出し、職員室を出た私は、廊下の先で美しいブロンドと碧眼の青年を見つけてしまう。
レイモンド……!
もし今、レイモンドが一人なら。
立ち話になるが、二人で話せるチャンスだった。
心臓がトクトクと高鳴っている。
レイモンドへの気持ちは断ち切ると決めたはずなのに。
彼を見るとすぐにも体は反応してしまう。
でも……。
一瞬の迷い。
それが命取りになることは、前世でも経験していたのに。私が迷っていると「王太子殿下~」と声が聞こえ、ソフィーがレイモンドに駆け寄った。ソフィーがチラリと私を見て、口元に笑みを浮かべる。
私はソフィーから視線を逸らし、俯き加減で、唇を噛む。
レイモンドの婚約者は私なのに。どうしてこんなみじめな思いをしないといけないの? ソフィーさえいなければ……。
どす黒い感情が沸き上がり、私はハッとする。
リナが悪役令嬢になってしまう心境を体感し、自分でも驚く。
驚くがその気持ちは分かってしまう。
好きな相手を奪われるのだ。
どす黒い感情が芽生えても、仕方ないのでは……?
顔をあげると、ソフィーとレイモンドの姿はない。
大きなため息をつき、私は廊下を歩き出す。
3年C組へ行くために、レイモンドとソフィーが先程までいた場所へ、向かうことになる。
「王太子殿下に、今日はお話があるんです!」
まさに階段の真下辺りに来て、聞こえてきた声に、ドキッとなる。その場所はそのまま中庭に出られるよう、扉が開け放たれていた。
どうやらその扉の先、中庭にソフィーとレイモンドがいるようなのだ。
「話……? これからマークの屋敷に、手紙を届けに行くのだろう? 馬車の中ではダメなの?」
「ダメです! だって馬車には私の侍女や、殿下の近衛騎士もいるじゃないですか!」
「それは……つまり二人きりで話したいことがあるということ?」
「そうですよ。たいせ~つな、話、です!」
ヒロインがレイモンドに何を話そうしているのか。気になる反面、聞かない方がいいと、脳内で信号が点滅している。
「……何かな、大切な話って……」
「ふふ。この言葉、待っていたんじゃないですか~? だって~、とっても重要だから~!」
足が、足が石になったかのように、動かない。
本当は今すぐ階段を駆け上り、3年C組へ行くべきと、頭は理解できているのに。
動けなかった。
「王太子殿下、約束してください」
「……約束? 何の?」
「だからこの言葉を伝えたら、私のこと、抱きしめてくださいね!」
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次話は18時頃公開予定です~






















































