まずは生き残ること。
満面の笑みのアンジェリーナ王女。
これならきっと悪い話ではないはず。
ドキドキしながら、王女の顔を見ていると……。
「お義姉様にマークのことを相談してから、思い切ってまず、お母様に話してみたのです。そうしたらお母様は『そうだろうと思っていたわ』とおっしゃられて……。お母様は女の勘というもので、私がマークを慕っていることに気付かれていたのです」
「! そうだったのですね。その表情から察するに、王妃殿下はマークとの交際について……」
「お母様は『応援したいわ。アンジェリーナがマーク令息と婚約できるように』とおっしゃってくれました! ただ王族の婚姻は本人の意思だけでは決められないことであり、お父様とまず相談した方がいいとなり……。まさにお父様に相談しようと思っていた矢先で、火災が起きてしまったのです」
そんなタイミングで火災が起きたなんて!
このゲームの世界のシナリオの強制力と抑止の力が、心底恨めしく思ったが……。
「今回、私を助け、マークは大火傷を負うことになり、手の件もあります。私はお父様にそれらを踏まえ、自分の気持ちを話したのです。そうしたら……」
もうアンジェリーナ王女の表情からも、国王陛下とどんな話し合いができたのか。それは分かってしまう。
「お父様はこう言ってくださったのです。『王妃から少し話は聞いていた。幼い頃から、レイモンド、マーク、アンジェリーナ、リナと四人で過ごして来た。レイモンドとリナが婚約しているから、必然的に様々な行事のアンジェリーナのエスコートは、マークがすることになった。そのアンジェリーナとマークの様子を見ていて、似合いの二人だとは思っていた』と。これを聞いた時、お父様もマークと私のことを、ずっと前から認めてくれているのかしら!?そう思いました」
そこでアンジェリーナ王女が紅茶を口に運び、私もつられるようにして、ティーカップを口元へ持って行く。
「お父様はマークと私が似合いの二人であると認めた上で、こうも言ったのです。『だが今回、婚約者のいないキルリル皇太子が留学で我が国へやって来たのだ。政治的な側面から見れば、皇太子と王女の婚約。これを考えないわけにはいかない』と。これを聞いた時は、そんな……!と思いました」
それは私も同じなので「キルリル皇太子と婚約の話が、まさか水面下で進んでいたのですか!?」と尋ねてしまう。
「調整はされていたみたいです。当事者には知らせず。でもお父様は最終的に、こんな結論に至ってくれたのです。『しかし今回の火災でのマークの身を挺しての活躍。もしマークがいなければ、アンジェリーナは……。そう思うと、忌まわしい火事ではあったが、ある種の天命だったのかもしれない。マークの意思をまだ確認していないが、もし望むのであれば、アンジェリーナとの婚約、認めようと思う』と!」
これには思わずソファから立ち上がってしまう。
アンジェリーナ王女も立ち上がり、そして……。
「おめでとうございます、アンジェリーナ王女!」
「ありがとうございます、お義姉様」
ぎゅっと抱き合い、国王陛下がアンジェリーナ王女とマークの婚約を認めてくれたことを、喜び合うことになる。
「お父様はマークのために、名医を見つけると言ってくれました。手術をちゃんとして、リハビリに励めば、きっと大丈夫だと元気づけてくれて……」
国王陛下が動いてくれる!
それならば間違いなく、この国で一番の医師がマークの手術をしてくれるはず。
「お父様がマークのために、名医を探してくれていること。私のマークへの気持ち。そう言ったことを全部、マークとも話したんです」
「マークはアンジェリーナ王女のことを……」
「『ずっと好きでした。子供の頃から』って、言ってくれました!」
泣き笑いのアンジェリーナ王女にハンカチを渡し、「よかったわ。本当によかったわ」と再度抱きしめ合う。
ここは乙女ゲーム『ハッピーエンドを君の手に』(通称“ハピエン”)の王太子攻略ルートの世界。メインキャストではないが、重要な役割を担う私、悪役令嬢に幸せは来ない。
でも王太子攻略ルートでは、完全にサブキャラになるマークと、アンジェリーナ王女。この二人が私の分まで幸せになってくれるなら……これほど喜ばしいことはない。
「アンジェリーナ王女、絶対に幸せになってくださいね!」
「ええ。お義姉様が一歩踏み出す勇気をくれたから、私、マークと婚約できると思うんです。一緒に幸せになりましょう、お義姉様!」
アンジェリーナ王女にそう言われた時。
心底思った。
私も……幸せになりたいと。
でも幸せになる前に。
私の場合は……生存する必要がある!
幸せより、まずは生き残ること。
そこが重要だった。
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次話は19時頃公開予定です~






















































