それぞれの思い
クラスメイトの書いた手紙を届けるため、ここへやって来た――そう、ソフィーが告げた。そこでアンジェリーナ王女が「クラスのみんなの手紙」に反応する。
手紙はマークのクラスメイトの善意の気持ち。
無下にできるはずがない。
「分かりました。ちょっとマークの様子を確認します」
「アンジェリーナ王女」
そこでキルリル皇太子が王女に声を掛けた。
「私とジョーンズ公爵令嬢は無事、お見舞いができたので、今日はこれで失礼させていただきます」
「! でもお茶を」
「実はこの後、街でランチをしようとお店を予約していたんです。あらかじめそれを伝えず、申し訳なかったです。ですからこれで失礼させていただきます。レイモンド王太子殿下もいるので、見送りは不要ですよ」
ランチのお店を予約した……そんなこと聞いていない。ただ、サプライズでこっそり予約していた可能性は……ある。しかしレイモンドのことを気にする発言をキルリル皇太子はしているのだ。
間違いない。
先触れもなく現れたレイモンドとソフィーに使用人たちが困惑していると、キルリル皇太子は気が付いている。ゆえにお見舞いはできたので、自分達は帰る。おもてなしは王太子にしてください……ということなのだろう。
用意したお茶もスイーツも毒味が済んでいるはず。そのまま問題なく、レイモンドとソフィーに出せるはずだ。
「そうだったのですね……。私、お義姉様と」
「アンジェリーナ王女~。王太子殿下が待っているんですよぉ~」
ソフィーの言葉に、アンジェリーナ王女の表情が硬くなる。
「ベネット男爵令嬢。僕達は急に訪問をしたんだ。そんな風に急かす必要はないよ」
「え~、でも~王太子殿下なのに~。待たせるとか、あり得ないと思ったのですが!」
稚拙なソフィーの言動は、王太子であるレイモンドの名声を傷つけかねない。少しイラッとし、言葉を出しそうになるのを呑み込む。
ここで何か言えば、ソフィーは「ジョーンズ公爵令嬢に、王女や皇太子の前で意地悪された!」と言い出しかねない。
「ジョーンズ公爵令嬢、アンジェリーナ王女とはまた別の機会に会うことにして、今日は帰りませんか?」
キルリル皇太子の提案には同意だ。
これ以上は見ていられない。
「月曜日の放課後、会いに来てもいいですか?」
「! はい。ぜひお義姉様、そうしてください。……お見送りは……」
「気にしないで。キルリル皇太子殿下と私は帰るだけなのだから。それよりもマークの様子を確認して。レイが来たと知ったら、喜ぶと思うから」
この言葉にアンジェリーナ王女は「そうですね!」と笑顔になり、再度見送りができないことを詫び、代わりに使用人へ私達の見送りを頼む。そしてこの場にいる全員にお辞儀をすると、前室へ入っていく。
「それではお先に失礼します、レイモンド王太子殿下、ベネット男爵令嬢」
キルリル皇太子の言葉に、私も一緒に頭を下げる。
「気遣わせてしまい、申し訳ないです」
「いえ、大丈夫ですよ」
キルリル皇太子とレイモンドが視線を交わした時。以前のような火花が散るような雰囲気はない。
「では行きましょうか、ジョーンズ公爵令嬢」
自然な流れでキルリル皇太子が手を差し出し、私もそれに応じる。
エスコートはこの世界でマナー。そしてこの場から立ち去るキルリル皇太子が私をエスコートしてもおかしくはない。でもレイモンドは私がキルリル皇太子にエスコートされることに嫉妬するのでは……?
そう思ってチラリと見ると、いつぞやかのように、ソフィーがレイモンドの腕に手を絡めた。さらにソフィーが私をじっと見る。声を出さずとも、その意図は伝わってきた。
こんなことをソフィーは言いたいのだろう。
「そっちはそっちで、美貌のキルリル皇太子とよろしくやっているんでしょう~? だったらレイモンド王太子は私と仲良くしてもいいわよね? 二人のイケメン、手に入るなんて思わないでよ、悪役令嬢さん!」
まさにそんな心持ちであることが伝わってくる。それはヒロインであるのだから仕方ない。そこはもう、どうでもいい。
ソフィーからは目を逸らし、代わりにレイモンドを見ると……。
「えっ!」と声が出そうになり、それは呑み込む。レイモンドはこちらを見ていない。私を残し、キルリル皇太子の屋敷を去った時と同じなの……?
私はキルリル皇太子にエスコートされている。本音では止めたいが、その行動は子供じみたもの。だからレイモンドは我慢している。キルリル皇太子にエスコートされる私を見ないようにしている……とうこと?
ヒロインとこの場に現れることになったのは、実に不本意。それでもソフィーはしつこくつきまとうから、やむを得なかったのだろう。同じ学級委員であること、クラスのみんなの手紙を届けるという大義名分をかざされては、「ノー」とは言いにくい。そこに重なる「ヒロインのラッキー設定」、シナリオの強制力、そしてヒロインを応援するゲームの世界の見えざる力。悪役令嬢である私がその力に抗えないように、攻略対象であるレイモンドにもこれらが多大に影響しているはず。
でも腕を絡めるソフィーに、何も言わない理由は……?
分かっている。
それはここがヒロインがレイモンドを攻略するための世界だからだ。私がことごとく断罪回避に失敗したように。レイモンドは、ゲームの世界から全面支持を受けるヒロインから、逃れることはできない……。
「ジョーンズ公爵令嬢、どうしましたか?」
「あ、いえ。行きましょうか。……それでは皆様、ご機嫌よう」
カーテシーをしてキルリル皇太子のエスコートで歩き出した。
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