翌日
王宮での火災の翌日。
新聞記事は昨晩の火災の件で埋め尽くされていた。
レイモンドが教えてくれたような状況が紹介され、かつ火事場泥棒や火事に便乗し、逮捕された犯罪者の似顔絵と名前もバッチリ掲載されている。さらに火事で奮闘した消防隊へ褒章が授与されること、鎮火のために怪我をした人へ王室からお見舞金が支給されることなども記載されていた。
『若き王太子、火災現場で火を恐れず、指揮をとる!』
『勇敢な宰相の息子、火の海から王女を助け出す!』
そんな見出しを見ると胸が熱くなる。
まだ若い学生の二人が、突然の火災に動じることなく、懸命に動いたことに。
「ジョーンズ公爵令嬢」
「はい」
「今朝、早馬で王家から二通の手紙が届きました。一通は、王太子の婚約者であるジョーンズ公爵令嬢を、王宮修復が終わるまで、客人として滞在させて欲しいという要請です。これは本国にも共有しますが、勿論、受け入れます。もう一通は『災害免除証明書』と書かれていますよ」
朝食の席でキルリル皇太子が渡してくれたのは、火災で一切が燃えてしまった私に、制服着用の免除、教科書などの無料再配布、一部の宿題や課題の免除などを王家の名の元、学校に求めるものだった。
この書類以外にも王家の名で発行された白紙小切手届き、これで必要なものは何でも買いなさいとなっている。
「今日は普通のドレスで登校しても、問題ないでしょう。ブラウスは明日には洗濯したものを着用できますが、一着では足りません。せっかく許可が出ているのですから、制服とドレスを併用されては?」
「そうですね。そうします」
教科書がもう一度貰えるのは助かるが、いろいろメモをとっていた。それらが消えてしまったのは残念でならないが、仕方ない。
こうして朝食の後、これまたキルリル皇太子の采配で用意してもらったワンピースに着替えることになった。
それは紺色に白の細い縦ストライプが入ったもので、クリーム色のブラウスと合わせて着るもの。さらに紺色のボレロを合わせると、何だか制服っぽく見える。王立アルデバラン学園の制服とは違うが、学生に見えるデザインなので、なんだか転校生気分だ。
「では学校へ行きましょうか」
「はい。……レイは迎えには……?」
「登校はしばらく別々となります。王宮での火災で、厩舎の馬達も一時避難を行い、混乱は残っていると思います。ここにも厩舎はあり、馬車は出せますから。これまではレイモンド王太子殿下の厚意で、迎えに来ていただいていました。ですがここは負担をかけないよう、自分で馬車を出します。ジョーンズ公爵令嬢はそれに同乗いただき、一緒に登校しましょう」
これは当然の対応であるが、登校時、レイモンドに会えると思っていたから……。
少し寂しい。
そこで改めて思うのは、五歳で王宮で暮らすとなった時。断罪する人と、一つ屋根の下なんていやー!だったのに。
当たり前のように「おはようございます」を言い合い、朝食の席で顔を合わせることが……とても恵まれていたと気が付く。
断罪する相手をこんなに好きになってしまうなんて。
「ジョーンズ公爵令嬢」
「は、はいっ!」
馬車に乗り込み、学園に向かい、既に屋敷を出発していた。向き合って座るキルリル皇太子は、白のシャツに明るいグレーのズボン、胸元にエンブレムのついた紺色のブレザーで、朝からキリッとした制服姿を披露している。
「レイモンド王太子殿下がいなくて、不安ですか?」
「! そ、それは……」
「毎朝当たり前のように顔を合わせていたのですよね、五歳からずっと。もう家族も同然のはずです。その王太子殿下に会えないのは……不安になって当然かと」
キルリル皇太子は秀麗な笑みを浮かべ、私に指摘する。
「……そうですね。顔に出ていましたか?」
「それは出ていますが、変なことではないですよ。むしろ当然の反応かと。好きならばなおさらです」
この指摘には顔を赤くさせることになる。
「今回の火災で、ジョーンズ公爵令嬢が、想像以上にレイモンド王太子殿下を好きなのだと分かりました」
「キ、キルリル皇太子殿下……!」
「火災は非常に残念なことですし、復旧を願うものです。ですがジョーンズ公爵令嬢の気持ちを分かりやすく理解できたのは……私にとって大きな意味があります」
この発言には「……?」となるが、そこで学校が見えてきた。
レイモンドとは一緒に登校できない。そしてマークは大火傷を負ったので、しばらくは登校できないだろう。
馬車でキルリル皇太子と二人、そして護衛と侍女だけでは……なんだか寂しい。
それでも正門を通過し、ついに到着。
昨晩の火災を受けてなのか、職員たちがエントランスに姿を見せ、馬車から降りる生徒に声を掛けている。
「ジョーンズ公爵令嬢! おはようございます。今日は無事登校できたのですね。……王太子殿下は?」
教師の一人が私に駆け寄り、声を掛けてくれた。そしてキルリル皇太子が事情を分かりやすく説明してくれる。「なるほど。王太子殿下とはしばらく別なのですね」と応じた教師に、私は災害免除証明書を提出した。
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