レイ……!
退出し、客間の前室に戻り、二十分程経った時。
メイドが部屋に来て、レイモンドが帰ることを教えてくれる。既にエントランスホールへ向かっていると聞き、慌てて向かう。
「!」
レイモンドは既に馬車に乗り込もうとしているので、ビックリしてしまう。
「レイ! さよならを言う時間はないの!?」
思わず叫ぶと、レイモンドの瞳が揺れる。
「リナ……もう入浴の準備をしているのかと思った。ごめん」
「ううん。いいの。気を付けて帰って! 国王陛下夫妻に、よろしく伝えていただけますか」
「もちろん」
「アンジェリーナ王女にも……マークのことで、気を落とさないでって」
「分かったよ」
そこで広がる沈黙に違和感を覚える。いつものレイモンドなら、「分かったよ、リナ」と言って、別れを惜しみ、ハグをしそうなのに……。
いや、キルリル皇太子もいるのだ。さっきは火災の動揺、私との再会の喜びで、いつも以上のスキンシップをとってしまったに過ぎない。
唇へのキスだって、剣術でキルリル皇太子に勝利した時の一度きり。抱き寄せることがあっても、抱きしめることは余程のことではないとしない。婚約していても未婚である点を踏まえ、自身を律してくれていた。
「それではこれで失礼いたします。夜分遅くまで付き合わせてしまい、申し訳なかったです」
ブロンドをサラサラと揺らし、お辞儀をしたレイモンドに、キルリル皇太子と私も頭を下げた。レイモンドはそのままお辞儀を終えると馬車に乗り込み、御者が扉を閉める。
馬車に乗り込んだレイモンドは、こちらを見ない。御者が掛け声をあげ、馬車がゆっくり動きだすが、レイモンドの視線は前方に向けられたままだった。
その様子を見ると、なんだか置き去りにされてしまうようで、不安になる。
「レイ……!」
思わず叫び、走り出しそうになる私の肩をキルリル皇太子が掴んだ。
「どうされたのですか、ジョーンズ公爵令嬢!?」
これには我に返り、「しまった」と思う。公爵令嬢らしからぬ言動を自分がとってしまったことに気付く。
「そ、そのっ……」
「きっと、我慢されたのだと思います」
「えっ……」
「ジョーンズ公爵令嬢をここに残して帰るなんて。レイモンド王太子殿下がしたいわけ、ないですよね?」
「!」
キルリル皇太子は掴んでいた私の肩をゆっくり離す。
「本当は一緒に王宮へ戻りたかったはずです。火災が王宮で発生した。それは不慮の事故だったとしても。王宮は王家の権威ある場所。そんなところで火災が起きたとなれば、喉元に剣をつきつけられ、なんとか避けたようなもの。不安だってあるはずです」
この指摘にはまさに目から鱗が落ちるだった。一緒に王宮へ戻りたかった……それはそうだと思えた。
「王太子殿下はまだ学生。成人した大人でもないのに、まるで一国の主と変わらない言動をされています。張り詰めた意識を途切れさせたらきっと『リナ、そばにいてほしい』なのでは? 見送られれば、心が揺らぐ。ゆえにジョーンズ公爵令嬢の見送りはなしで帰ろうとしたのに……」
これには合点が行く。
唐突な帰宅に思えたことも。
いつもとは違う沈黙にも。
馬車へ乗り込んだ後、前しか見ていなかったのも。
全部、自身のそばに私にいて欲しいという気持ちを呑み込むためだった。それを知ってしまうと、レイモンドへの想いが募る。お互いにこんなにも想っているのに、離れ離れになることが切なくてならない。
「さあ、ジョーンズ公爵令嬢。火災はありましたが、明日、学校は普通にあるはずです。特に何の連絡も来ていないので。休む準備をしましょう」
「そうですね。……ミニチュアサイズのボトルシップを失くしてしまったこと。結局、言えませんでした」
「あ……ああ、そうですね。でもこんな火災があったのです。むしろ……好都合では?」
「それは……」
私をエスコートし、歩き出したキルリル皇太子を見ると、彼はこんな風に言う。
「気づいたらなくなっていた。金具が壊れてしまったのかもしれない。もしかしたら部屋で落とし、そのままで火事で……」
この説明なら、レイモンドも「仕方ない」になるだろう。そう思うのと同時に、私の部屋にあったいろいろなものが燃えてしまったことを、今さら実感することになる。
お気に入りのドレスも宝石も本も。
みんな失ってしまった……。
制服もそうだ。
それに。
レイモンドがさっき話題に出した、一緒に作ったボトルシップ。最後の最後で失敗したのを、レイモンドがリカバリーして届けてくれたもの。それも焼けてしまったのかと思うと……。
私に残されたのは、レイモンドとの思い出だけ。記憶しかない。いろいろ贈られたものは全部、灰になってしまったのだ。
その事実に一抹の不安を覚えながらも、明日のために休むことになった。
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