その時何が
国王陛下夫妻、アンジェリーナ王女の安否を尋ねられたレイモンドが答える。
「ご心配をおかけしました。父上と母上……国王陛下夫妻、アンジェリーナは無事です。ジョーンズ公爵とも宮殿で会いました。彼は消火活動を手伝ってくれていましたが、今は公爵邸に戻ったはずです。そして火の手は宮殿ではなく、王宮であがりました」
これにはキルリル皇太子と私で「「えっ」」と声を漏らしてしまう。
「アンジェリーナは逃げ遅れ、救出に向かったマークがひどい火傷を負うことになり……。一命は取り留めましたが、マークは右腕を大火傷しました」
これには大いに驚き、詳しい話をとなり、ダイニングルームの隣室のソファに腰を下ろすことになった。
キルリル皇太子と向き合う形で、レイモンドと私が並んでソファに座る。すぐにレイモンドのための飲み物が用意され、それを飲みながら、話が再開された。
「火の手は王宮で上がったのですね。火元は分かっているのですか?」
キルリル皇太子が尋ねると、レイモンドは頷く。
「秋となり、沢山の落ち葉が地面を埋め尽くします。王宮のあちこちで落ち葉を集め、定期的な清掃が行われていました。そして王宮には、王族のみの出入りが許されている、プライベートガーデンという場所があります。プライベートガーデンは、中庭や裏庭と違い、そこまで広くはありません。それでも落ち葉はあります。落ち葉が集められ、それは籠に入れられ、持ち出される手筈になっていました」
同時にその時間帯は、日没に備え、シャンデリアやランプ、トーチに火をつけ始める。
「僕はマークと共に教室で、ベネット男爵令嬢とリプリー子爵令嬢に、王国史のレクチャーをしました。それを終え、王宮へ戻ることになり、マークと二人、馬車で帰宅している時。鐘の音を聞いたのです。鐘の音で、大規模な火災であると分かりました。でもどこが燃えているのか。マークと二人、一旦馬車から降り、周囲を確認し、煙を視認したのです」
そこからその方角に何があるか考え、「宮殿では!?」となった。しかしまだ確信を持てない。騎乗で護衛についている近衛騎士を動かし、様子を探らせる。同時に馬車で宮殿を目指すことにした。
ところがすぐに馬車は足止めされ、近衛騎士から「宮殿で火の手が上がったようです!」と報告を受ける。
「その後は馬車を降り、馬で宮殿まで戻ることになりました。いざという時に備え、抜け道を把握していたので、宮殿に戻ることはできましたが……まさか王宮が火元だったとは」
レイモンドが大きくため息をつくが、その気持ちはよく分かる。
私だって五歳の時から王宮に住んでいるが、その管理は徹底したものだった。王宮付きの使用人は貴族令嬢の行儀見習いも多く、身元もしっかりしており、きちんと教育を受けていた。ゆえにいつも王宮は快適な場所に保たれていたのだ。しかも警備兵も沢山いて、安全は確保されているはずだったのに。
「現場近くに行きましたが、火災発生直後の様子は伝聞しただけです。ですがおそらくは、プライベートガーデンの回収予定の落ち葉に、何らかの理由で火がつき、それはあっという間に燃え上がった。火種があるのですから、ものすごい勢いで燃えたのだと思います。すぐに鎮火とはならず、さらに突然の火事に驚いたことで、例えば手にしてたランプを放置し、避難してしまった。そのランプが新たな火種になり……そんな連鎖が起きたのかもしれません。あちこちで火の手が上がり、ボヤでは収まらない火災になりました」
王宮や宮殿の火災。
戦時中でもなければ、その原因は火の不始末が多い。そして前世のような科学捜査もできないので、原因の特定は難しいし、誰がその不始末をしたのか。見つけ出すことは無理だった。
火の手があがれば、まずは鎮火。その後は防火対策をしながらの復旧活動をするしかない。放火であると分かれば、全力で犯人逮捕に動くが、今回の話を聞く限り、火災が起きそうな要因は揃っている。沢山の落ち葉。火を使う時間帯。突然の出火に動揺したことによる人災。不幸な事故による火災だったと思われる。
「一時はかなり燃えましたが、消防隊が沢山駆けつけ、警備兵や騎士、男性の使用人も手伝い、皆で鎮火を行いました。ゆえに火の手はほぼ収まりました。ただ再燃のリスクがあるため、現場の確認、入念な水撒きは続けられています。ですがその現場は消防隊に任せ、父上の……国王陛下の許可を得て、ここに来ました」
そこで言葉を切ると、レイモンドがその瞳を震わせ、私を見る。
「本当にリナが無事でよかった……。宮殿から屋敷へ戻ろうとした貴族の馬車が足止めをくい、火災の混乱に乗じた強盗、令嬢が襲われる事件も起きていると報告もあったので……。すぐに王都警備隊に、治安維持の指示を出したけど、とても危険な状況。リナは馬車で進めないとなったら、きっと徒歩で宮殿へ戻ろうとするのではないかと考え、気が気ではなかった……」
感極まった様子のレイモンドは、隣のソファに座る私を、再びぎゅっと抱きしめた。その体が震えていることに気付き、ハッとする。
私の安否を気遣い、無事と分かっても体を震わせているのだ、レイモンドは。
こんな彼が私を断罪するなんて……。
とても思えなかった。
同時に。
レイモンドの私を思う気持ちに心が打たれ、強く自覚することになる。
彼のことが大好きだった。どれだけソフィーに脅されようと、レイモンドから離れたくない――と。
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