ピンチはチャンス
「リナ、待って。それは中で組み立てないと、無理だね。でもこのパーツなら大丈夫だよ。でもその前に色をぬってしまった方がいいよ」
日曜日。
お祈りをして王宮でブランチをし、その後、レイモンドとボトルシップ作りをするようになった。
◇
私がレイモンドの作りかけのボトルシップを割ってから一週間後。お詫びとして素敵な瓶と染料をプレゼントすると、レイモンドはとても喜んでくれた。その様子を見た国王陛下が「せっかくだから、一緒にボトルシップ作りに挑戦しては?」と提案したのだ。
これには「えっ」と思うものの。
興味はあった。
だってボトルシップは本当に不思議だったし、これを作れたらすごいと思うのだ。どうやって作るのかも、前世でも気になっていた。
レイモンドと過ごす時間が増える。
それは彼の婚約者である、悪役令嬢としての立場を盤石にしていくもの。ゲームの世界としては「してやったり」だろう。
だがレイモンドと過ごす時間が増えるということは、婚約破棄につながるような行動をとれるチャンスでもあるのだ。
ピンチをチャンスに変える逆転の発想。
それこそ勝利の鍵!
ということでレイモンドとのボトルシップ作りを快諾した。そしてボトルシップ作りが始まるが……。
「まずはどんな船を模型として、瓶の中にいれるか。それを考える必要があるんだよ。ここにいろんな船を描いたずかんがあるけれど……。リナ。今から港に行かない? そこには沢山の船がていはくしている。実物を見るとイメージがわくし、気分ももり上がると思うんだ」
この提案には「ぜひに!」だった。なぜなら港にはまだ行ったことがなかったのだ!
「いきたいでしゅ。でんか、つれていってください!」
「もちろんだよ。ジョーンズ公爵、いいですか?」
「ええ。国王陛下に外出の許可を取りましょう」
こうして私の父親とレイモンド、なぜかお供に宰相の息子のマークも登場し、護衛のための近衛騎士も連れ、港へ向かうことになった。
馬車の中ではレイモンドが船についていろいろ説明してくれる。
「帆船にはいくつか種類があるけれど、大型で商船として利用されていたのは、カラック船なんだ。そして軍用船として登場したのがフリゲート船で、見た目もかっこいい。ブリッグ船の特徴は、二本のマスト。軍船としても、商業船としても活躍している」
さらに話は帆の種類にも及ぶ。
「帆にも種類があって、一本マストが主流の時は、一枚帆だった。形は四角帆と言われるもの。ラテン帆は……」
「殿下。初心者にいきなりそこまで説明しても分からないですよ。実物を見ながら話すといいと思います」
マークに指摘されたレイモンドは「そうだね」とそこで間もなく四歳児の表情に戻り「マーク。君にきてもらってよかったよ。ボトルシップのことになると僕、つい熱くなっちゃうから。今みたいにストップをかけてくれると助かるよ」と告げている。
これを聞いた私の父親は微笑んでいるが、そこは私も同じ。
自分の興味のあることについては熱弁をしたくなるもの。それを話すのが王太子だったら、聞いている相手は多くがストップをかけにくい。でもマークとレイモンドは同い年で幼なじみ。王太子に待った!をかけるには最適だった。
それにしても。
レイモンドとマークが会話していると、とても間もなく四歳児とは思えない。レイモンドもそうだが、マークは宰相の息子であり、学園での成績は、時にレイモンドを超えることもあった。まだ幼いがその頭の良さの片鱗が見て取れていた。
「お、海の香りを感じるね」
父親の言葉に、みんな左側の窓を見る。
突き当りを右に曲がると、ついに海が見えてきた。
すると……。
「見て! リナ! あそこにフリゲート船が見えるよ! 船首から船尾までのラインがとても美しいと思わない? 三本のマストがあるけれど、中央のあの大きなマスト。ボトルシップの中で、帆を綺麗に張ることができると、最高にかっこよくなるんだ。でも船体が細いから、ビンの中で安定をとることが難しい。帆の数も多くなるから、上手く折り畳んでビンの中に入れる必要があるのだけど……。でも完成したら、とても感動できる!」
「殿下」とマークが苦笑するが、私は……。
「でんか、フリゲートせんをボトルシップでつくれたら、すごいとおもいましゅ! リナにはまだはやいかもしれませんが、でんかに贈ったあのビンにつくってほしいでしゅよ!」
私の発言を聞いたレイモンドは、もうえくぼを全開にした素敵な笑顔になった。
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次話は19時頃公開予定です~