お祝い
鞄にボトルシップがないこと。レイモンドにバレないか心配だった。ゆえに郊外学習以前のように、私は何となくレイモンドを避けてしまう。
授業と授業の間の休憩時間は、レストルームに行ったり、レストルームに行ったまま音楽教室へ移動してしまったり。だが昼休みは避けられない。そう思っていたら、チャリティーバザーの件で担任の教師からキルリル皇太子と二人、職員室へ来るよう呼び出された。おかげで、レイモンドと昼休みを一緒に過ごさずに済んだ。
ちなみに呼び出されたのは王都民から届いた声を教えてもらうためだった。
「日曜日のチャリティーバザーは大成功と言えるだろう。学園には『王太子殿下の羽根ペンとインク、また販売して欲しい!』『普段手に入らない珍しい花が、手頃な価格で手に入って嬉しかった』『共布とリボンで巾着を作ります。素敵な布が手に入り、子供達も喜んでいます』などのとても好意的な声が沢山届いている。特にそれぞれの商品についていた思い出に『温かい気持ちになった』『新しい持ち主として大切にしようと思えた』『貴族の皆さんを身近に感じられた』という実に強い共感のこもったメッセージが届いたよ」
そう教えてくれた教師から、沢山の手紙の入った木箱を受け取ることになり、これには嬉しくなってしまう。
平民は読み書きがあまり得意ではない。それは貴族のように幼い頃からきちんとした教育を受けるわけではないからだ。
平民向けの学びの場は、教会などで提供されているが、前世のような義務教育があるわけではない。よって話すことはできるが、書いたり、読んだりは……というのがこの世界では当たり前。それなのにわざわざ手紙を書いて、学園に届けてくれたことに感動してしまう。
「それにマナーもきちんとしているし、終わった後もゴミを残さず、きちんと清掃した点も高評価だ。売上金額も過去最高だし、校内新聞は勿論、王都で発行されている新聞でも記事にしてもらえることになった。二人とも、よく頑張った。ロングホームルームでクラスのみんなにも報告するが、先にボランティア委員の二人には知らせることにしたよ」
これには実に嬉しくなり、キルリル皇太子とハイタッチで喜んでしまう。
「ジョーンズ公爵令嬢。放課後、ティールームに行ってボトルシップを受け取ったら……。よかったらお祝いをしませんか?」
「お祝い、ですか?」
「はい。ボランティア委員として二人で頑張りましたよね。特にジョーンズ公爵令嬢はユニークなアイデアを打ち出してくれて、それが王都民の高評価につながったと思います。思い出の物語のついた品。とてもよかったです。その頑張りを称えたいと思ったのですが、ご迷惑でしょうか……」
これには「迷惑なんて、そんなことありません!」と即否定することになる。何よりボランティア委員としてキルリル皇太子も頑張ってくれたのだ。
時計塔広場の利用申請を準備し、提出したのもキルリル皇太子。クラスメイトに思い出を書くひと手間を、気持ちよくやってもらえるよう、前向きな説明をしてくれたのも彼だった。
大勢が訪れるティールームで、ささやかなお祝いをする。それぐらいしても罰は当たるまい。
「せっかくティールームに行くので、お祝いしましょう! 紅茶で乾杯、いいと思います」
私の言葉に、キルリル皇太子のアイスブルーの瞳が喜びで煌めく。
こうして放課後、私は落としたボトルシップを取り戻し、チャリティーバザーの成功を祝うため、キルリル皇太子とティールームへ向かうことになった。
◇
「リナ。ようやく授業が終わったね。なんだか昨日の午後からずっと、バタバタしてゆっくり話せなかった。この後、予定はないよね? 王宮に戻ったら、温室でゆっくりお茶をしてから、宿題を一緒にやらない?」
「レイ、ごめんなさい! 昨日のチャリティーバザーの件で、街へ出向く用事ができてしまったの。でも夕食前には王宮に戻るから、そこでまた話しましょう」
「えっ、そうなの……」
レイモンドが分かりやすくがっかりな顔になったところで、ソフィーが「王太子殿下、マーク様、宿題で分からないところがあるんです~。教えてください!」と声を掛ける。レイモンドはマークに任せようとするが、ソフィーは食い下がる。
「でも分からないのは王国史なんですっ! 王国史は王家の歴史。王太子殿下にとっては先祖の話ですよね。この学園で一番王国史に詳しいのは、歴史の教師ではなく、王太子殿下だと思うんです~! だ・か・ら、教えてください!」
ソフィーのこの言い分は……その通りだった。
レイモンドは片眉をくいっとあげ、盛大なため息と共に「……分かりました」と応じる。
この時ばかりはソフィーに感謝だ。
レイモンドはマークとソフィーと共に教室に残り、私はキルリル皇太子と共にティールームへ向かえるのだから!
お読みいただきありがとうございます!
明日から平日。今晩はたっぷり休息をとり
また明日から無理なく歩き出せますように。
次話は明日の7時頃公開予定です~
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