数学好きですから!
チャリティーバザーは盛況のうちに終わった。
本来は十七時までの予定だったが、十六時前には完売。共布一枚、リボンのひとつも残ることなく、綺麗に売れてしまったのだ。
準備にあれだけ時間がかかったが、完売すると片づけはあっという間に終わってしまう。
「本当は月曜日の放課後にやろうと思っていましたが、このまま売り上げ金の確認をしてもいいですか?」
キルリル皇太子に聞かれた私は「はい。そう言った計算は早くした方がいいと思います!」と同意。すると計算が得意なマークが手伝うと言い、レイモンドも「では僕も」と申し出てくれたが……。
「大丈夫ですよ、レイモンド王太子殿下。殿下が手伝ってくれたら、ほぼ殿下が頭を働かせて終わりになりそうです。ここはボランティア委員に任せてください。ただ、ジョーンズ公爵令嬢のことが気になるのですよね? それならばこれから向かうティールームに殿下も来るといいですよ」
キルリル皇太子の提案にレイモンドが「では同行だけさせてもらうよ」と応じると、「はい、はいっ!」と声がする。
「私、疲れてしまったし、お腹も空いちゃいました~。ティールーム、一緒に行ってもいいですか~? メアリー子爵令嬢も一緒に!」
これにはキルリル皇太子は「ええ、いいですよ。頑張ったのでお腹が空いたのですよね。美味しいスイーツがあるお店です。一緒に行きましょう」と応じる。
ソフィーの本性など知らないのだから、キルリル皇太子がこの反応でも仕方ない。それになんだかんだで二人は、初対面の時から仲が良いのだから……。
こうしてキルリル皇太子、レイモンド、マーク、ソフィー、メアリー子爵令嬢、私の六人でティールームへ移動。人気のお店であり、六人が座れる席はあいにく用意できないという。
勿論ここで身分を明かせば席を用意してもらえたかもしれないが、予約をしていたわけではないし、そこまでする必要はないとなった。
その結果。
チャリティーバザーの売り上げ計算をするキルリル皇太子、マーク、私で一つのテーブル。レイモンド、ソフィー、メアリー子爵令嬢で一つのテーブルに案内された。
私達はテーブル席だが、レイモンド達はソファ席。これにはレイモンドがなんとも言えない表情をしたが、仕方ないだろう。
それぞれ着席し、まずは飲み物とスイーツを注文。注文を終えると、キルリル皇太子、マーク、私で早速計算を始めた。飲み物とスイーツも毒味があるから、到着まで時間がかかる。少しでも作業を進めようと手を動かしていると……。
「私も手伝います」
この声は……と顔上げると、そこにはメアリー子爵令嬢がいた。これにはすぐにピンとくる。ソフィーの差し金だ。レイモンドと二人きりになるために。
「リプリー子爵令嬢、今日は午前も午後もずっと会計をやっていましたよね? もうコインは見たくない心境では?」
マークの指摘にメアリー子爵令嬢は頷きかけ、慌てて首を振る。
「そんなことありません! 私、意外と数学好きですから!」
涙目でそう言っている姿は……かわいそうだが、きっとソフィーから絶対に手伝うよう、圧を掛けられているのだろう。
「せっかく申し出てくれたのです。どうぞ、座ってください。コインではなく、紙幣を数えてもらえますか?」
キルリル皇太子にそう言われると、メアリー子爵令嬢はホッとした様子で席に腰を下ろした。
レイモンドは今、ソフィーと二人なのね。
そう思うと、なんだか気になるし、心臓もドキドキしている。
お昼に宣戦布告されたのだ。
気になって当然だった。
だが急に二人の仲が深まるとは思えない。
きっと、大丈夫。
そこで「大丈夫?」と自分でツッコミを心の中で入れてしまう。
ソフィーの指摘通りで、ここは悪役令嬢がハッピーエンドになる世界ではない。悪役令嬢は婚約破棄と断罪をされないと……許されない世界なのだ。
もしこうやって売り上げの計算をしている間に、ソフィーとレイモンドの仲が深まったとしても……。仕方ないことだと思う。
「お待たせいたしました。皇太子殿下、ジョーンズ公爵令嬢。皆さまのご注文のお飲み物とスイーツです」
毒味が終わった飲み物とスイーツを、近衛騎士が届けてくれた。
「ありがとうございます」
キルリル皇太子が微笑み、テーブルに注文の品が並べられていく。
その時、甲高い笑い声が聞こえた。
間違いなくあれはソフィー。
気になる……いや、気にせず、作業を進めよう。
こうして私は売り上げ計算に没頭することになった。
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次話は14時頃公開予定です~






















































